[ ロボット ]
(2018/7/21 08:00)
モノづくり日本会議は6月22日、東京・大手町のトラベル・ハブ・ミックスでロボット研究会を開いた。約100人の参加者を前に、資金調達手法の多様化や試作の容易化で事業環境が大きく変化するロボットベンチャーとその支援企業各3社が登壇し、ロボットベンチャーをめぐる状況やその支援施策のあり方などについて議論した。
【開会あいさつ】
ロボット研究会コーディネーター 千葉工業大学未来ロボット技術研究センター副所長 石黒 周氏
ロボットビジネスを成功させるためには、ロボットビジネスを「ロボットを作るビジネス」ではなく、ロボット技術を導入することで課題解決を図り、顧客・経済価値を創出する「ロボット化ビジネス」と捉えることが必要だ。そして、それを産業として成長させるためには、ベンチャーによるチャレンジが多く生み出されるようにしなければならない。
本日はベンチャー企業との連携のあり方を探り、新しいビジネスに結び付けてほしい。
【ロボットベンチャーによるプレゼンテーション】
ispace 取締役兼COO 中村貴裕氏
「宇宙開発をコンテンツに」
私たちは人類の生活圏を地球から宇宙に広げることで、人類の生活を豊かにすることをビジョンに掲げており、それを月面探査ロボット「ローバー」や着陸船を開発することで実現したいと考えている。
特に数十億トンあると言われている月の水に着目している。月の水を水素と酸素に分けることで、ロケットや衛星、着陸船の燃料にすることができる。私たちは将来、これを活用することで月をガスステーションとして利用し、宇宙の輸送体系を大きく変えたいと考えている。
宇宙開発には膨大な資金がかかるため、ベンチャーキャピタルなどによる実質的に最初の資金調達ラウンドであるシリーズAで103・5億円を調達した。
この資金を元手にし、2020年に、月の周回軌道に着陸船を入れ、21年に月面着陸することを計画している。
当社のビジネスモデルは(1)月にモノを運ぶ(2)ローバーで収集した月のデータを政府系の機関に販売する(3)宇宙開発の取り組みをコンテンツとし、出資企業のマーケティングやブランディングに活用してもらう―の三つだ。
顧客は政府系の機関や民間のインフラ企業、メディア・エンタメ系の企業など幅広い。JAXAとは5年間の共同事業を実施している。
ユカイ工学 代表取締役兼CEO 青木俊介氏
「楽しく・愉快なロボ開発」
当社は25年に全ての家庭にコミュニケーションロボットがある未来を創ることを目指し、人が楽しく・愉快になるロボットを開発している。
売り上げの6割が受託で4割が自社製品の販売だ。さまざまな企業の製品の設計開発やデザインを受託し、それを自社製品の開発に生かしている。
自社で開発した製品にしっぽの付いたクッション型セラピーロボット「Qoobo(クーボ)」がある。
年に1回社内で行っている試作コンペで生まれたプロダクトで、なで方によってリアクションが変化するため、コミュニケーションを取っているように感じる。
製品発表直後の昨年10月、クラウドファンディング(CF)によって1000台分の予約注文を集め、資金調達した。
3年前にはコミュニケーションロボット「ボッコ」を発売した。人がボッコの前を通ると通知する人感センサーや部屋の温度や湿度を通知する湿度・温度センサーなどを搭載し、高齢者や子どもの見守りで使われるケースが増えている。
今後、センサーのバリエーションやウェブサービスとの連動を進めることでプラットフォームに進化させたい。
Moff 代表取締役兼CEO 高萩昭範氏
「独自のハードウエア 強みに」
当社のビジョンは「子どもからお年寄りまで生き生きとした健康的な生活を送ることに貢献すること」だ。手に付けて動きをセンサーで測定する「モフバンド」を核に、さまざまなサービスを提供している。
当初は子ども向け教育やエンタメサービスが中心だったが、現在は介護施設向け機能訓練ソフト「モフトレ」や、病院のリハビリを見える化する「モフ測」などのヘルスケアサービスが柱になっている。CFにモフバンドを出した際、世界中からヘルスケア分野への進出を勧められ、取り組み始めた。
これまでの経験を踏まえ、ロボット事業には次の五つの考え方をもっている。
(1)ハードウエアはシンプルにし、アプリケーションでサービスを拡張する(2)アプリケーションはハードウエアから取得されたデータに基づき提供する(3)自由なアプリケーション提供のために自分たちのハードウエアを作る(4)独自ハードウエアから得られるデータが最大の差別化とスケール要素になる(5)データはユーザーによっていつの間にか、たまっている―。
【スタートアップ支援者によるプレゼンテーション】
Darma Tech Labs 代表取締役兼CEO 牧野成将氏
「『死の谷』越えを支援」
近年、ハードウエアベンチャーが増えてきている。その理由に、デジタルファブリケーションが普及したことでモノづくりが安価に始められるようになったことや、CFの台頭で資金調達がしやすくなったこと、IoT(モノのインターネット)の出現でソフト・ハードを組み合わせた新しいビジネスモデルが誕生したことなどが上げられる。
一方、試作と量産化の間にある「ハードウエアベンチャーの死の谷」と呼ばれる「量産化試作」のフェーズを超えられない企業が多い。
私はそこに着目し、「メーカーズ・ブート・キャンプ」を立ち上げた。主に(1)試作コンサルティング(2)量産化試作(3)投資(4)サプライチェーン構築―に取り組んでいる。既に国内外6社に投資をし、IT企業のハードウエア開発などを支援している。
今後、世界中のハードウエアベンチャーの試作支援を進めることで、日本をハードウエアベンチャーのハブにしていきたい。
テックショップジャパン 代表取締役社長 有坂庄一氏
「課題解決・交流の場に」
当社が運営する「テックショップ東京」は1200平方メートルの敷地に旋盤や3Dプリンター、溶接など50種類以上の工作機械をそろえ、会員は自由に使用できる。
こうしたアイデアを形にすることができる施設は増えているが、ここでは場所を提供するだけでなく、会員のコミュニティーを活性化させるために、さまざまなイベントも実施している。
これまで、テーマを決めて、その分野のトップのベンチャー企業2社が登壇するイベントや、テクノロジーを使って新しい街を創造するワークショップなどを開催した。最近では、ビジネス領域のアクティビティーも増えてきており、企業の新規事業領域をオープンイノベーションで進める取り組みをNTT西日本やヤマハ発動機、LIXILなどと実施した。
将来はインキュベーション施設としての役割も加えるなど、ステークホルダーが抱える課題を解決するプラットフォームになりたいと考えている。
Spero 代表取締役兼CEO 高橋ひかり氏
「事業化へ総合サービス」
社名のSPERO(スペロ)はラテン語で希望を抱くという意味だ。全ての人の一瞬のひらめき・アイデアを希望と捉え、それを形にすることを目指している。具体的な支援として、製造支援、ユーザーエクスペリエンス(UX)支援、シード資金支援などに取り組んでいる。
製造支援事業は製造エキスパートのマッチングサービスを行っている。量産試作、量産のプロセスには多くのプレーヤーとリソースが必要になるが、適切なパートーナーと出会うことは非常に困難だ。そのため、新しいアイデアを持つベンチャーに熟練の技術者などを紹介している。
また、UX支援では生活者や地域コミュニティーを基盤にしてユーザーリサーチ・ヒアリングと実証実験を実施している。特徴は新規事業、スタートアップに特化している点だ。第一線で活躍している起業家・UXデザイナーがUX改善するサービスも提供している。
シード資金支援では、新たなビジネスの種になるシード期のアイデアやプロトタイプの母集団を国内の中堅企業と増やすことに取り組みたい。
パネルディスカッション
■パネリスト
ispace取締役兼COO 中村貴裕氏
ユカイ工学代表取締役兼CEO 青木俊介氏
Moff代表取締役兼CEO 高萩昭範氏
Darma Tech Labs代表取締役兼CEO 牧野成将氏
テックショップジャパン代表取締役社長 有坂庄一氏
■モデレーター
Spero代表取締役兼CEO 高橋ひかり氏
「人材・顧客紹介などVCに期待」/「製品開発はサービスありきで」
ロボットベンチャーの課題と資金調達
高橋氏 資金調達はどのような方法、タイミングで実施してきたか。
中村氏 初めて資金調達したのは12年だ。その際はCFで200万円を調達した。その後、エンジェル投資家やベンチャーキャピタル(VC)から投資を受け、17年末にはシリーズAで国内最高額の103・5億円を調達した。VCには宇宙開発の社会的な意義と新産業創出の重要性といった中長期的な視点に加え、短期的にどのように売り上げに結び付けるかというビジネスモデルが評価された。
高萩氏 私の資金調達の優先順位は、エンジェル投資家、CF、融資、事業会社からの投資、VCだ。しかし、条件や金額だけでなく、相手との相性が重要となる。VCには資金だけでなく、採用人材や顧客の紹介などの支援を期待している。KPI(重要業績評価指標)などの数字づくりのアドバイスは非常に参考になる。
牧野氏 CFは資金調達の手段だが、他にもメリットはあると思う。やってみて感じた点を教えてほしい。
青木氏 プロモーション効果が非常にある。CFで目標を超える注文があったことを、小売店への営業やVCへのPRに使える。
中村氏 CFを資金調達よりもマーケティングやブランディングとして考えている。宇宙は遠い存在と一般の人に捉えられているため、CFによって身近なものと感じてもらい、産業の成長を加速させたい。
牧野氏 そうしたメリットがあればベンチャーだけでなく、大企業にも有効な手段だろう。
有坂氏 支援先の企業の中には全然売れなくても面白い製品はある。開発者も「売れる製品を開発する」「企業を成長させる」とは違う価値軸を持っている人もいるため、どう支援すべきか考えている。
牧野氏 製品の良しあしの評価は投資先の顧客がするものであるため、VCは評価に迷うことがある。VCは投資先を信じることが重要だと思う。
ロボットベンチャーの技術・製品開発
高橋氏 製品開発する上で、技術やサプライヤーの探索はどのように行ったか。
中村氏 サプライヤーの探索には苦労した。設立当初はさまざまな企業に手紙を100通くらい書いて送った。製品開発はサービスありきだと考えている。顧客の課題がどこにあるのか考え、それを解決する製品開発を行ってきた。
青木氏 イノベーションの起点はデバイスだと想う。半導体商社や部品メーカーから新しいデバイスの情報をもらうことで技術探索を行っている。
高橋氏 事業化前にデータを集めるにはどうすれば良いか。
高萩氏 データを集めるために試作品をひたすらプレゼンして協力してくれる人を集めた。
より良いエコシステムの構築に向けて
(2018/7/21 08:00)