[ オピニオン ]
(2018/7/20 05:00)
文部科学省の前局長の受託収賄事件で舞台となった「私立大学研究ブランディング事業」は、従来の支援事業と異なるユニークなものだ。しかし“研究を通じた大学改革”という狙いは採択大学によく浸透していない。文科省はより大学とのコミュニケーションを進めるべきだ。
「この事業で文科省は一体、何を求めているのでしょうね」。事件前、2016年度採択を受けたある研究型大学の幹部はこう疑問を口にしていた。研究事業への応募・採択の経験は十分あるが、それらと比べて同事業は申請の必要書類が少なく、金額も1件当たり2500万円程度とかなり小さい。「研究費でなく、大学のブランド確立の広報戦略に使うのだといわれたのだが…」と悩んでいた。
同事業は学長のリーダーシップの下で、大学の特色ある研究を基軸に、全学的な独自色を打ち出す“大学ブランディング”を後押しするものだ。「あの大学ならこの研究テーマ」と多くの人に通じるイメージを構築し、それにより大学改革を進めるのが狙いだ。
通常の研究支援事業はその分野の研究成果の創出が目的で、事業予算は研究費として支給される。しかし同事業はブランド構築が目的で、「地元や業界など社会のどのような層に向けて情報発信するのか最初から設計する」(文科省高等教育局私学助成課)ことを重視する。そのため社会貢献につながるアピール手法も大学が考えるよう促す。事業予算はこの活動に使い、研究自体は学長裁量経費や競争的資金などで行う仕組みだ。
これまでの同事業採択100件の約半分は地方・中小規模大学で、短期大学を含む知名度の低い大学も少なくない。私立大は学生数が多く人文・社会科学系が中心で、一般に研究の意識は高くない。それだけに同事業の刺激が期待される。
しかし、同事業で文科省と東京医科大学のブランドが低下したことは皮肉なことだ。事業の分かりにくさは事件の背景の一つ。国の事業では、当事者間のオープンで積極的なコミュニケーションを意識してほしい。
(2018/7/20 05:00)