[ オピニオン ]
(2018/8/6 05:00)
国民の豊かな生活のために、政府はITを活用した生産性向上をもっと後押しすべきだ。
内閣府の2018年度経済財政報告(経財白書)は、緩やかな経済成長が戦後最長に迫りながら、デフレ脱却が進まない状況を多面的に分析した。特に強調しているのは、企業が生産性を向上することで従業員の賃上げを継続することだ。そのためには第四次産業革命に向けたイノベーションを急ぐとともに、人手不足を補う企業内教育が重要だと指摘している。
マクロ経済としての分析に異論はない。しかし産業界の立場では、日本経済再生の原動力を企業の努力だけに求められても困る。
大企業は政府の要請に応える形で、5年連続で労働側が要求するベース・アップを受け入れた。それでも消費が上向かないことに潜在的な不満がある。
中堅・中小企業の経営者は、必ずしも賃上げに積極的ではない。その理由は白書が分析しているように、必ずしも業績が好調でないことや、将来の景況に不安があるためだ。不況期のリストラや、リーマン・ショックの混乱で負った傷を、今も経営者は鮮明に記憶している。
生産性が向上し、収益が高まれば賃上げもスムーズに行くに違いない。しかし現実にはイノベーションを進めるIT人材は不足し、逆に人工知能(AI)などで置き換えられる事務職には多くの企業で余剰感がある。人手不足が深刻化し、中高年の労働力を活用せざるを得ない中で、企業内の人的資源の新陳代謝は遅れがちだ。
政府は大学改革や、社会人に“学び直し”の場を提供することで、産業界の求めるIT人材の育成にもっと力を入れてほしい。白書では、日本の行政サービスの電子化は先進国中の最下位で、圧倒的に劣後していると分析している。これが企業に古い“定型業務”を要求し、社会変革を阻んでいることも特記しておきたい。
賃上げはイノベーションによる生産性向上の結果であるべきだ。賃上げ頼みではない日本経済の再生を政府に求めたい。
(2018/8/6 05:00)