[ 機械 ]
(2018/11/1 11:00)
アディティブ・マニュファクチャリング(AM)の対象が実製品の生産へと急速に拡大している。特に、金属を用いたAMにおいては、材料コストやリードタイムの削減を狙って、造形後に機械加工を施す複合化が一般的な形態となりつつある。付加加工であるAMと除去加工である機械加工の融合の必要性とメリットについて述べる。
東京農工大学 大学院機械システム工学専攻 教授 笹原弘之
AMは工作機械と相性よし
一般に金属部材の製造といえば、鋳造、鍛造、切削・研削、溶接などが主要な製造方法であり、溶接以外は材料の変形もしくは除去による手法である。その中でも切削・研削の機械加工は特に高い精度が必要な場合に用いられる。
金属材料のAMにはいくつかの基本方式があり、それぞれメリットとデメリットがある。粉末床溶融結合(PBF)は、金属粉末を平坦(へいたん)に敷き詰めレーザーや電子ビームで1層ずつ溶融・固着し積層するものであり、精細な造形が可能で造形精度が比較的高い。造形能率は毎時数十cc程度と高くないが、レーザーを複数搭載するなどして高能率化も進められている。
米ゼネラル・エレクトリック(GE)のLEAPエンジンの燃料噴射ノズルはこの手法により製造されており、30%の製造コスト低減とライフサイクルコスト25%低減を実現している。しかしこの場合も、結合部分など精度が必要な部分には後工程で切削仕上げを行っている。
もう一つの主流の金属材料のAMは指向性エネルギー堆積(DED)で、いわゆる肉盛りプロセスがその原理である。金属材料を粉末もしくはワイヤの形態で供給し、それをレーザー、電子ビームまたはアーク放電により溶融し、金属のビードとして堆積することにより造形を行う。PBFと比べると造形精度は劣るが、造形能率は一般的に高い。
造形ヘッドに熱源と材料供給を一体化できるので、ロボットにそれを持たせたり、工作機械の主軸に取り付けたりすれば大型造形も容易である。工作機械との複合化にも適する。国内の複数の工作機械メーカーからはこのタイプのAMプラス機械加工の複合機がリリースされている。レーザーを熱源とする場合には、レーザーによる熱処理やマーキングも同時に複合化することも可能である。
切削量激減はメリットは大
写真は独Gefertecのワイヤ+アーク方式のAMによる中実造形物とそれを切削仕上げしたデモ部材である。造形能率毎時325cc、造形時間は6・5時間である。製造コストは4500ユーロから2000ユーロに削減できるとのことである。通常、このような製品は直方体の部材から切削加工を行うが、それに比べて大幅に切りくず量が削減できる。
AMで機械部品を製造する場合、ニアネット形状に造形できるので無駄な材料が省けるとともに、鋳・鍛造材などを入手するためのリードタイムおよび型製作費が削減できる。切削量が減ることは工具費の削減につながる。あるいは切削前の部材の在庫をなくし、AMの原料である粉末またはワイヤを在庫として持つだけで、1個流しの生産が可能となる。
加工能率を考えると、切削加工では1分間に数十―数千ccの体積を除去加工可能であるのに対して、金属AMの付加可能な能率は“1時間”当たり数十―数百cc程度である。したがって、長尺の構造物をすべてAMで製造することは必ずしも得策ではない。
そこで有効となるのは、既存部材あるいは切削部材へAMにより付加する加工である。例えば、超耐熱合金製ジェットエンジンケースの外周部にあるボスや、チタン合金製航空機用リブ形状部材などがこれに当たる。付加する体積は相対的に小さいため、造形時間も短く、切削量を激減することが可能であり、すべて除去加工による従来工法に比べてメリットが大きい。
付加造形部分を、高硬度金属、耐食性金属とすることにより、部材に付加価値を与えるとともに全体コストの低減も可能である。このことは、摩耗や減肉を伴う部材の補修にも有効である。また、一体構造による組み立てコストとサプライチェーンのコスト削減に加えて、トポロジー最適化による最適化をはじめとするAMに特化した製品設計も求められる。
これらの実現のためには、AM造形前の機械加工、AMによる付加加工、さらに機械加工により仕上げる、あるいはレーザーにより熱処理を行うといった複合化が必要となる。
(2018/11/1 11:00)