[ オピニオン ]
(2019/5/22 05:00)
布勢の海の沖つ白波あり通ひいや年のはに見つつ偲はむ―。万葉集の選者である大伴家持は、越中(現富山県)の国司として、5年間赴任した。当時あった湖「布勢の海」の景色を好んで、白波の美しさを毎年通って眺めようとの思いをこう詠んでいる。
富山の自然を愛した家持は、滞在中に220余首の歌を作り、万葉集に残した。これらは「越中万葉」と呼ばれて地元の人々に親しまれている。
この万葉集にゆかりが深い富山県で、連休中に「万葉集とその未来」と題した講演会が開かれた。講師は高志の国文学館(富山市)の中西進館長。令和の考案者といわれる時の人だけに会場は満員の聴衆でにぎわった。
「自然は我々の表現の基本になっている」と中西氏は語る。日本人が万葉の時代から自然の風物に思いを託する「寄物陳思」の歌で感情を表してきた歴史に触れ「自然が我々にとっていかに確固たる存在であるか」とも。
初春の令月にして気淑く風和らぎ―。家持の父、大伴旅人の「梅花の歌」が原典の令和。うるわしい月と和らぐ風という風物に現代の日本人はどんな思いを託すか。中西氏は講演をこう締めくくった。「うるしく平和をグレードアップしていく時代が来た気がする」と。
(2019/5/22 05:00)