(2021/4/8 05:00)
オシロスコープは電気信号の時間的な変化を波形表示する基本の電気測定器。「見えない電気信号」を観察し、産業のマザーツールの一つとしてエレクトロニクス分野の研究開発から生産、保守、学校教育まで幅広く活用されている。デジタル信号のプロトコル解析機能を搭載したモデル、多チャンネルで高分解能を図ったモデル、高品質でコストパフォーマンスに優れたモデルなどが投入されエンジニアの測定要求に応えている。
研究開発・生産・教育まで幅広く活用
オシロスコープは電気信号が時間とともにどのように変化するのかを示す。信号波形からは信号の時間と電圧や周波数、回路の可動部分、特定信号の発生頻度、正常に動作していない部品による信号影響、ノイズ成分の大きさやその時間変化などが判断できる。
オシロは広帯域化や波形の視認性、操作性の向上が図られてきた。これまでも、デジタル信号のプロトコルを解析できるミックスド・シグナル・オシロ(MSO)や、高周波(RF)測定機能、信号発生機能の内蔵や独自ASIC(特定用途向けIC)を搭載するなど高機能化したモデルが投入され、幅広い分野の測定要求に応え続けている。
■半歩先を提案
日本電気計測器工業会(JEMIMA)が発表した2020年度のオシロの売上高は、新型コロナウイルス感染症による設備投資抑制から前年度比25.0%減の63億円とした。21年度以降は第5世代通信(5G)サービスを活用したIoT(モノのインターネット)機器の拡大、自動車の電動化の加速が見込めることから、24年度は73億円を予測している。
電気自動車(EV)の普及拡大を背景にインバーター、モーター、パワーエレクトロニクス、さらには先進運転支援システム(ADAS)を実現する車載イーサーネット「100BASE-T1/1000BASE-T1」などの測定・解析需要の増加が見込まれている。
主要メーカーはユーザー要望に対応し、半歩先を見据えて提案している。取り込んだ波形を外出先のパソコンで解析できる機能などテレワークに対応した動きも始まっている。
米国に本社を構えるテクトロニクスの日本法人は「20年9月に発売した新製品のMSOの引き合いが高まっている」と言う。DDR4型のDRAMを搭載したモジュールや産業機械の開発では、微少電圧で大電流化の設計になるため、高速信号を確実に捕捉する必要がある。こうした基板上に流れる信号の電源品質(パワーインテグリティー)の解析要求を背景に、垂直分解能12ビットで8チャンネルモデルの需要が高まっていると話す。
岩崎通信機は炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)などのパワーエレ分野に注力する中、ユーザー要望に応える12ビットの高分解能、8チャンネルオシロが好調だ。インバーターや三相モーターでは、電圧・電流の測定に6チャンネルが必要とされる。さらにセンサーやノイズなどの信号を解析するとなると8チャンネルモデルが求められる。
同社は「20年前半は足踏み感があったが、10月を境にオシロ需要は高まりを見せている。単月ベースでは、前年同月比を超える売り上げ月も出ている」という。自動車・車載、空調関連で、省エネルギー化を背景とする研究や開発スピードが加速していると分析する。
リゴルジャパンは「20年は大学の授業や実験用途、日本のエレクトロニクス市場の研究向けに旺盛なオシロ需要があった」と強調し「オシロの国内売り上げは教育機関向けで19年比50%増、電子関連を中心とする企業向けで同30%増を達成した」という。企業向けには周波数帯域で350メガ~2ギガヘルツのMSOが伸長。その背景に「コストメリットの高さだけでなく、高品質と高信頼性に裏打ちされたオシロとして認知してもらえた」と分析する。
同社は中国・蘇州に本社を構えるリゴルテクノロジーズの日本法人。オシロの生産を担う中国・蘇州工場では、高い品質・信頼性の向上を目指し、生産効率とコストダウンに取り組んでいる。歩留まり率0・87%の実現やタクトタイムの短縮、省人化を図り、生産工程ごとに徹底した検査を行っている。
同法人は15年に設立され、3人でスタートし、教育機関を中心に50メガ-200メガヘルツ帯域のオシロを展開した。日本の市場を重視したマーケティング戦略で、教育分野だけでなく電子関連企業への納入実績を広げ、現在は社員数が12人まで増員している。今後は4ギガヘルツ以上のMSOの投入を予定している。
■重要なプローブ
要求する信号を正しく測定するには、「プローブ(探芯)」や「オシロと測定ポイントの接続(プロービング)」が重要な要素となる。
テクトロニクスは新製品MSOの発売と同時にパワーエレ向けに電気から光に変換して測定する光アイソレーション型の差動プローブを投入した。高速にスイッチングするデバイスを正確に測定する。
岩崎通信機は大電流測定需要に応えたラインアップの販売に力を入れる。回路を切断することなくインバーターなどの大電流波形の解析を行うロゴスキーコイル電流プローブに注力する。
販売会社の声
環境対応車・ADAS・IoT・5Gに重点
オシロスコープなど電子測定器を中心に取り扱う販売商社は、メーカーとユーザーの架け橋として非常に重要なポジションにある。
オシロの国内市場について、日本電計は「20年前半は半導体市場に旺盛な需要が見られた。21年は(1)環境対応車(2)ADAS(3)IoT(4)5Gに重点を置く」と述べる。服部(神戸市灘区)は「21年は新エネルギーや蓄電池の事業に向けて、電力計やバッテリーテスターと合わせた提案を展開する」と語る。
東洋計測器(東京都千代田区)は「10月後半から周波数帯で500メガ-1ギガヘルツ帯の引き合いが増加している。EVや蓄電池関連、電源などの動きが要因」と分析する。エム・イー(東京都昭島市)は「21年は多チャンネル・高分解能、多機能搭載モデルを販売する」という。
穂高電子(横浜市港北区)は「20年は5Gや蓄電池などの開発需要、学校教育向けに伸長した。今後も自動車関連、5Gなどの通信関連、パワーエレ関連に提案する」と話す。東日本電子計測(仙台市泉区)は「自動車・5G・家電製品の伸長にけん引された。微小信号の測定と解析が重要視される」と考える。九州計測器(福岡市博多区)は「通信機器関連で広帯域のオシロが増加。21年は車載向けなどのパワーエレ市場の伸びを見込んでいる」と強調する。
東日本大震災 10年 BCP取り組み ユーザー支援
11年3月11日に発生した東日本大震災は、国内外に大きな悲しみをもたらした。
東北地域を商圏とする東日本電子計測は「当時はユーザーサポートに急いだ。メーカーからの支援に助けられた。近年は脱炭素や5G、電子部品業界の活況など明るい兆しが見えている。今後も事業継続計画(BCP)に取り組み、ユーザーを支援していく」と述べる。宮城県や福島県に営業所を構える日本電計は「日本各地でさまざまな自然災害があり、モノづくりをはじめとする事業継続の対応を深く考えさせられた。これからも当社の対応に合わせ、計測器メーカー各社の被災顧客への対応にも積極的な協力を惜しまない」と強調する。
◇名機物語 岩崎通信機 アナログオシロの第1号を開発(1954年)
オシロスコープは、米・テクトロニクスが1947年に発売した「トリガーオシロスコープ」が先駆けといわれる。
国産初のオシロは岩崎通信機が、54年9月にアナログオシロの第1号機「シンクロスコープSS-751」の開発に成功した時から始まる。周波数帯域は5メガヘルツで、当時の保安庁技術研究所(現防衛省)にレーダー保守用として納入している。同社は51年、東京都立川市にあった米・極東空軍基地のレーダー修理に使われていた「オシロスコープ」の情報を得たことから、着目して試作開発を始めた。
1号機は常に変化する波形を直径3インチのブラウン管上で停止して観測できる画期的な特徴を持つことから、シンクロスコープと名付けられた。
70年には国内初の集積回路(IC)を搭載したアナログオシロを開発。2002年1月にはアナログオシロで周波数帯域1ギガヘルツの製品化を実現した。
岩崎通信機は波形の濃淡(波形の発生頻度)などアナログオシロしか表現できない「リアルタイムな波形観測」を常に大切にし、デジタルオシロを開発している。高分解能で8チャンネルの新製品へとその姿勢が受け継がれている。
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