(2021/5/20 05:00)
超高速・超大容量・多数同時接続・超低遅延を実現する第5世代移動通信(5G)商用サービスが2020年3月末に国内で始まり、スマートフォンなどの対応端末のラインアップ、通信エリア拡充が進んでいる。また、5Gを地域限定で用いる「ローカル5G」が注目され、さまざまな産業の需要増加に期待が高まっている。一方で、5Gの次の世代である「ビヨンド5G」(6G)を視野に入れた研究開発などワイヤレステクノロジーが大きく成長しようとしている。
対応端末やエリア拡大
5Gは現行の4Gの一つであるLTEと比べて、データ通信速度は約100倍となる1秒当たり10ギガビット、伝送時の遅れ(遅延)は10分の1となる1ミリ秒を実現する。2時間映画のダウンロードにかかる時間は5分必要であったのが3秒で済み、4K映像の受信も可能だ。
多数同時接続は1平方キロメートル当たり100万台。超低遅延のためリアルタイムに建設機械やロボットなどの遠隔操作が可能で、屋内外の家電やセンサー、自動車などあらゆる機器が接続し、IoT(モノのインターネット)環境を構築する。
こうした5Gのテクノロジーは新しい産業やサービスを創出するとして期待が高まっている。
調査会社の富士キメラ総研が昨年に発表した世界の5G対応スマートフォンの台数は、21年が5億1500万台、25年には9億台を見込んでいる。
5Gは6ギガヘルツ以下の周波数帯を用いたSub6(サブシックス)と24ギガヘルツ以上の周波数帯を用いたミリ波に分けられる。5G対応はSub6を中心に進んでおり、端末メーカーはフラッグシップからミドルレンジまで幅広く普及を図っている。
ミリ波は超高速・大容量通信が可能だが、直進性が高く障害物に弱い特性がある。Sub6帯はミリ波に比べ遮蔽(しゃへい)物に強い。
また、22年前後からはスマートウオッチやスマートグラスなどの5G対応が始まると予想。25年には2000万台規模の市場になるとみている。
スマートフォンを中心に搭載される携帯電話のアンテナは増加傾向にある。LTEのハイエンド端末では1台に7~8個のアンテナが搭載されているケースもあり、5G対応ではSub6でアンテナの搭載係数は増加すると予想する。ミリ波では対応のアンテナが3~4個搭載されるといわれる。5G対応の携帯電話用アンテナの世界市場は21年が6030億円、25年が9850億円と見込んでいる。
こうした中、日本電波工業は5Gスマートフォンなど向けの超小型水晶振動子の生産能力を増強し、設備投資を行う。狭山事業所(埼玉県狭山市)と函館エヌ・デー・ケー(北館道函館市)で増産体制を整え、フォトリソブランクの製造ラインの増設などで約6億円を投資する。今年7月以降の稼働を見込んでいる。
76.8メガヘルツのサーミスタ内蔵水晶振動子「NX1612SD」は、米クアルコム・テクノロジーズの5G対応スマートフォン向けIC(集積回路)用途として認定第一号で、20年6月から量産を始めた。受注は順調に拡大し、今後の旺盛な需要に対応するため生産能力増強が必要と判断した。
JCUはエレクトロニクス分野ではプリント配線板、電子部品、半導体などの製造工程に必要な薬品を開発・製造・販売をしている。同社の21年3月期連結決算によると、台湾市場において5G対応電子部品に使用される半導体パッケージ基板が増加した。
基地局 中国で需要伸長
基地局はRUセクター(複数の無線送受信装置をまとめたユニット)と、BBU(ベースバンド処理装置)などを一体化した「D-RAN基地局」のほか、RUセクターとBBUが分離し光ファイバーで接続している「C-RAN基地局」のタイプがある。
D-RAN基地局はカバーエリアが広い「マクロセル基地局(出力10ワット以上、カバーエリア300メートル以上)」、カバーエリアが比較的狭い「スモールセル基地局(出力10ワット未満、カバーエリア300メートル未満)」に分けられる。
富士キメラ総研による世界の21年基地局市場は、マクロセル基地局が70万局で2兆3200億円、スモールセル基地局が10万局で1400億円と見込んでいる。
JCUによると中国において、5G基地局やサーバー、タブレット向けプリント基板、車載用プリント基板、SSD(ソリッド・ステート・ドライブ)基板などの需要が伸長した。
ローカル5G 工場などに導入
「ローカル5G」は地域の企業や自治体など通信事業者以外が自らの建物内や敷地内で、スポット的に5Gのシステムを柔軟に構築できる。これまで無線化が進んでいなかった工場や農場、建設現場やイベント会場、病院などで導入が期待されている。ロボットやドローン、自動車の自動運転、5Gの特徴や人工知能(AI)を生かした工場内でのAGV(無人搬送車)などの需要が市場創出すると期待されている。
富士通はネットワーク機器の製造拠点である小山工場(栃木県小山市)で、ローカル5Gを活用し、現場作業の自動化や遠隔支援などを行うスマートファクトリー(つながる工場)システムの運用を始めた。システムは4.7ギガヘルツ帯のスタンドアローン(単体)型と、28ギガヘルツ拡張周波数帯のノンスタンドアローン型で構成した。本年度中に製造業向けサービスとして発売を予定している。
凸版印刷とTISはローカル5Gに関して技術連携し、両社の拠点にスタンドアローン方式の基地局の設置を計画している。周波数帯はSub6帯を利用し、本年度中に拠点間での実証実験環境を構築する。技術検証や実証実験を通じて新規事業の創出につなげる。
NECとNECプラットフォームズは、NECプラットフォームズ甲府工場(甲府市)に、ローカル5Gの4.7ギガヘルツ帯域を用いた環境を構築し、ピッキングロボットの遠隔操作と、映像・音声の共用による遠隔作業支援の二つの業務で有効性を検証した。22年度までに生産ラインへ本格導入を目指す。
ピッキングロボットは、5Gで映像伝送しながら1人で2台のロボットを制御し、遠隔から8種の部品のピッキングを検証。映像表示・ロボット操作の遅延が0.2秒以下と、ストレスなく操作できる目標値を達成した。
こうした中、計測機器メーカーのアンリツは構造計画研究所と共同出資してローカル5Gの導入や運用を支援する新会社「AKラジオデザイン」を6月に設立する。
アンリツの測定・評価技術を中核にした通信計測機器や測定サービスと、構造計画研のシミュレーター製品や解析サービスを融合する。ローカル5Gの導入を検討する企業などに、シミュレーションから実評価までの総合サービスを提供する。
ドイツのローデ・シュワルツ日本法人は、基地局から発信する電波強度の測定(ドライブテスト)や通信機器の異常分析ができるモバイル・ネットワーク・スキャナー「TSMA6」が、ローカル5G向けに好調に販売している。同製品は屋内の測定にも使用でき、Sub6とミリ波に対応する。
サイバー攻撃に対するセキュリティーに向けて、トレンドマイクロは5Gやローカル5Gのセキュリティーソリューション「トレンドマイクロ・モバイルネットワークセキュリティー(TMMNS)」の提供を始めた。IoT端末に搭載中のSIMカード内で動作するエンドポイント(端末)セキュリティー、5Gシステムの通信経路上で動作するネットワークセキュリティーで構成する。
ビヨンド5G テスト環境整備
情報通信研究機構(情通機構)はビヨンド5G(6G)の開発加速のため199億7000万円を投じ、21年度中にテストベッド環境を整備する。5G以降は要素技術と通信、アプリケーション(応用ソフト)が密接に連結したサービスが展開されると見込まれる。一貫して検証できる環境を整え、通信インフラとサービスの開発を加速する。
ビヨンド5Gでは大容量データ伝送を支えるマルチコア光ファイバーや、テラヘルツ帯の電磁波を扱う必要がある。
情通機構が整備するテストベッドではこうした要素技術を統合し、検証する試験環境を整える。
(2021/5/20 05:00)