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(2021/7/1 00:00)
製造機械メーカー向けの小型モデルも発売
アズビルが販売するAI 活用のオンライン異常予兆検知システム「BiG EYES(ビッグアイ)」の売れ行きが好調だ。2015年の発売以来、製造業の幅広い業種に浸透。納入実績は50 事業所に及ぶ。社内に専門家がいなくても現場で機能構築が容易にでき、小さな異常予兆を高精度に発見できるのがその理由だ。2020 年には新たに製造機械メーカー向けの小型モデル(スターターパック)「BiGEYES EM」を発売。ユーザー層の拡大に拍車が掛かっている。
モノづくり自律化のファーストステップ
アズビルは未来型コンセプトとして、コア技術の計測・制御にIoT・ビッグデータ・AI技術を乗ずることで、製造業の新たな価値を創造する「モノづくり自律化システム」を掲げる。従来、人が行っていた作業を制御系に置き換え、人に考える時間を与えて飛躍的な生産性向上を目指そうというものだ。
そのファーストステップとして商品化したのが、オンライン異常予兆検知システムの「BiG EYES」であり、2015年秋から販売を開始した。「BiG EYES」は監視機能を構築する「コンフィギュレータ」、製造装置・制御システム・センサなどから操業データを収集する「サーバ」、オンラインリアルタイム監視のための「ビューア」の3つのノードで構成される。工場や建物のプロセス、設備、製品品質、排水や大気などの環境変数を常時、オンラインでモニタリング。AIがビッグデータから正常な振舞いを学習し、微細な変化を捉え、「いつもと違う」ことを素早く検知。トラブルを未然に防ぐことで安定生産に寄与する。
製造現場で使えるA I
「販売を始めた頃は、まだ様子見の企業が多かったが、2018年から成約件数が一気に増えた」(同社)。現在までのシステム納入実績は50 事業所、実運用されているモデル数は5000超に及ぶ。オンライン異常予兆検知はIoT やAI 活用で本命視されてはいるものの、短期間にこれほどまで実績を積み上げたのはきわめて珍しいケースだ。
人気の秘密を探ると、いくつかの理由が見えてくる。製造現場に特化し、製造装置、センサ、制御システムに直結して、すぐに使えるAI システムであること。一般的なAI システムが異常予知検知のアルゴリズムを1つしか持たないのに対し、非線形重回帰分析と多変量時系列パターン分析という原理の異なる2種類のAIを並列運用し、検知精度や網羅性を高めていること。そして、目的さえ明確にすればデータサイエンティスト(専門家)の手を借りなくても、現場で機能構築できることなどだ。実際に、導入企業の半数以上が現場で機能構築し運用しているという。
対象は大工場から町工場まで
ある食品会社は、原料を粉砕する工程での装置トラブルを検知するために、装置内の温度分布の微妙な崩れを監視している。この工程は寒冷下という過酷な環境にあり、装置トラブルが発生すると、そこでの数時間にわたるメンテナンスが必要となってしまう。予兆段階でこれを検知することにより運転操作にて装置の緊急停止を回避する事ができ、生産機会損失の減少と労働環境の改善というメリットが得られている。
逆浸透膜を用いて純水を生成する半導体関連企業では、膜の劣化具合を監視してトラブルを未然に防ぐ手段に活用。劣化具合を過去のビッグデータをもとに機械学習させると、精度よく推定できるためである。また、機械や装置メーカーの中ではメンテナンスサービスに活用する企業も出ている。ほかにも、ロボット、モーター、熱交換器の異常検知など、さまざまな業種業態で導入が進んでいる。
その一方で、より安価で小規模なシステムを求める中小製造業が多いことにも注目。2020年に製造機械メーカー向けの「BiG EYES EM」を発売した。同商品は「BiGEYES」のノウハウをもとに効率的な運用手順をパッケージ化したスターターパック(導入支援)付きライセンス版であり、同社には「工場全体でなく、特定の機械のモニタリングに使いたい」などの引き合いが多数、寄せられているという。
大工場から町工場まで、「BiG EYES」の需要は今後、ますます高まりそうだ。
(2021/7/1 00:00)