モノづくり日本会議 モノづくり力徹底強化検討会「ハノーバーメッセから見えてくるインダストリアル・トランスフォーメーション」

(2021/7/28 05:00)

モノづくり日本会議は5月31日、モノづくり力徹底強化検討会「ハノーバーメッセから見えてくるインダストリアル・トランスフォーメーション」と題したウェブセミナーを開催した。コロナ禍を受け今年もオンライン展となったドイツのハノーバーメッセ(4月12―16日開催)の見どころや、デジタル変革(DX)を基盤に据えた産業変革の動きなどについて、東芝デジタルイノベーションテクノロジーセンターエキスパートの八木秀規氏が解説した。

インダストリー4.0発表から10年

東芝デジタルイノベーションテクノロジーセンター エキスパート 八木秀規氏

ドイツのインダストリー4・0は2011年に構想が発表され、それには水平統合、垂直統合、統合エンジニアリング、人中心という四つの軸がある。これらは密接に関係し、そして最終的には従業員や利用者といった人の幸せに結びつかなければ意味がないという発想だ。10年たった今でもこの軸はブレていないということを、オープニングセッションでもかなり強く説明していた。

フラウンホーファー研究機構からは欧州全体の研究開発プロジェクト「ホライズンヨーロッパ」が紹介され、2021年から27年までの7年間で955億ユーロ、12兆円近い予算が投じられるという。うち欧州でのイノベーションを実現する大型プロジェクトとして挙げたのが、水素戦略と「GAIA―X(ガイアエックス)」だ。

GAIA―Xは、IT大手に握られているデータの主権を確立する、そして欧州がそれをリードするという狙いがある。推進組織としてGAIA―X AISBLという非営利団体があり、234の企業や団体が参画。ドイツ企業が多いが、欧州以外でも英国、シンガポールなどの企業も加入している。年間予算は1500万ユーロ。

GAIA―Xの中で集中的に取り組む分野は健康、製造、モビリティー、公共、スマート生活、金融、エネルギー、農業の八つで、42のユースケースについての検討が進行中。

うち製造分野での事例として、インテックが「インテリジェント・デジタルツイン・フォー・マニュファクチャリング」の紹介を行った。工場の製造設備の状態監視やプロセス監視に加え、発注状況とひもづけて製造状況をコントロールしたり、故障予知による効率的な保全を可能にしたり、といった統合サービスが実現できると説明していた。

ドイツ経済エネルギー省による「データルーム・インダストリー4・0」の説明もあった。サイバーフィジカルシステム(CPS)における実在と仮想を全体的に統一したモデルで取り扱うコンセプトだ。さまざまな業界におけるデータルームをGAIA―X上に実装するもので、自動車業界ではCatena―Xというプロジェクトが進められている。

基盤構築、管理シェル…活動が実証段階へ

次に「管理シェル」の動向。管理シェルは今回、ハノーバーメッセで聴講したセッションの中で、最も多く出てきたキーワードである。機器や製造ライン、工場といった階層ごとに決められた手順で情報のやりとりを行っていたものを、管理シェルを利用してやりとりすることで階層の壁が取り払われ、企画から設計、生産、保守までエンジニアリングチェーンがつながるインダストリー4・0の目指す垂直・水平統合が実現できるようになる。

その普及推進団体が「インダストリアル・デジタルツイン・アソシエーション」(IDTA)で、ドイツを中心にドイツ機械工業連盟(VDMA)、電気電子工業連盟(ZWEI)、シーメンス、フエスト、ボッシュなどインダストリー4・0を主導してきた28団体・企業が加盟。このことからも管理シェルの普及そのものがインダストリー4・0の鍵になっていることがわかる。

管理シェルのユースケースとしては、管理シェルの持つ情報の編集や可視化するツールをフエストが開発。同社設備の持つ静的データだけでなく、機器の動作に伴って変化する動的データも可視化するデモをしていた。また、韓国とドイツの協業プロジェクトではプラスチック成形機の状態のデータを管理シェル経由で吸い上げ、一元的に可視化する取り組みも紹介された。

ドイツが2030年に向けて掲げた国家ビジョンである新たなデジタルエコノミーの実現と、それをドイツが主導していくために、管理シェルなどの要素技術を押さえながら欧州データ基盤であるGAIA―Xの構築を進めている。また、こうした技術の国際標準化への提案や欧州以外も含めた海外企業への訴求や啓蒙(けいもう)といった周辺活動も着実に進めている。今年のハノーバーメッセでは、これまで個々の活動であったこれらの要素が結びつき、実装や実証実験の段階に入っていることが確認できた。

(2021/7/28 05:00)

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