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深層断面/東芝「スピード」勝負−残された時間2カ月、稼ぎ頭守る

(2017/1/27 05:00)

半導体分社化、きょう取締役会

東芝の生き残りをかけた経営再建が動き出す。米原子力発電事業で発覚した最大7000億円規模の損失リスクに対処するため、27日に取締役会を開き半導体メモリー事業の分社化を決議する。今後は同事業の新会社に対する外部企業からの出資受け入れや、グループ会社の保有株式の売却を進める。2017年3月期末の債務超過を回避するために残された時間は約2カ月。スピードが命運を左右する。(後藤信之、政年佐貴恵)

【関連記事】東芝の半導体分社化、複数社から入札選定 2000億円以上調達へ

  • 債務超過回避に向け事業の売却待ったなし(東芝本社ビル)

  • 四日市工場の新第2製造棟は3次元構造のNAND型フラッシュメモリーを生産する

  • 巨額減損の可能性で会見する(右から)綱川智社長、平田政善代表執行役専務ら(昨年12月)

■外部から資本

「半導体メモリー事業の分社が債務超過回避の要だ」―。1月中旬、米原子力発電事業での巨額損失への対応を問われ、東芝幹部は厳しい表情で語った。

東芝は原発子会社の米ウエスチングハウスを通じ、原子力発電所建設などを手がけるCB&Iストーン・アンド・ウェブスター(S&W)を15年12月に買収した。このS&Wの資産価値を見直した結果、最大7000億円規模の損失が発生することが明らかになった。自己資本の毀損(きそん)は避けられず債務超過が現実味を帯びる中、NAND型フラッシュメモリー事業を分社化し、外部資本受け入れの決断を下す。

外部からの出資比率は20%程度に抑え、東芝が主導権を確保する考えだが、一部とはいえ“虎の子”を手放すことは大きな転換点となる。

実はメモリーを分社し、外部から資本を受け入れ、将来は上場させる構想は過去にも検討された。不適切会計問題が発覚した15年度だ。その時は東芝全体の財務基盤の強化と、メモリー事業での設備投資余力を確保するという二つの理由があった。特にNANDメモリー市場首位で東芝の最大のライバルである韓国サムスン電子が猛烈な勢いで設備投資を実施しており、当時はメモリー事業部からは「コーポレートに利益を吸い取られず、資金をブンブン回せる方が良い」との声も聞かれた。

ただ16年度に入り、分社化議論は沈静化する。メモリー事業の業績が上向き、一定規模の設備投資費を確保できるめどが付いたためだ。同事業としては資金調達を急ぐ必要がなくなる一方、「儲かっているメモリーが東芝全体を支える」という構図が相対的に強まり、分社化・上場を将来の選択肢として温存しながらも、当面は現状維持という流れができた。

■否定的発言も

それが一転したのは、米原発事業での損失が明らかになった16年12月。「金のなる木」として再びメモリーの分社化・上場が俎上(そじょう)に載った。それでも当初、幹部からは「買い叩かれるリスクが高い」として分社して外部からの資本を受け入れるという措置には否定的な発言も聞かれた。NANDメモリー事業の好調で利益を積み増せるとの思惑も広がっていた。

しかし、そんな楽観論は1月中旬に一気に吹き飛んだ。数千億円規模と説明されてきた損失額が、7000億円規模に膨らむ可能性が明らかになったからだ。債務超過リスクが高まり、メモリーの分社化・外部からの出資受け入れに舵(かじ)を切った。「できるだけ高く買ってもらうやり方を考える」。東芝幹部のミッションは、虎の子をどう温存するかから切り替わった。

■“東芝離れ”

東芝の過去を振り返ると半導体事業の不振を、インフラ事業が補ったケースもある。今回は半導体がインフラをカバーして東芝を救うことになるが、皮肉にもそれは“東芝離れ”の引き金になる。半導体メモリーの新会社はいずれ上場するだろう。将来の「半導体なき東芝」が現実味を帯びてきた。

  • 米ウエスチングハウス製原子炉を採用した米原子力発電所(イリノイ州=ブルームバーグ)

■想定シナリオ、「最悪」見据え自己資本積み上げ

東芝は2月14日に16年4―12月期連結決算を発表し、同時に米原発事業での最終的な損失額を公表する計画だが、損失額が7000億円規模に膨らんだ最悪のケースを見据えた対策を進めている。債務超過を回避するため、17年3月期末までにどう自己資本を積み上げるか。

想定されるシナリオはこうだ。16年9月末時点の自己資本は約3600億円。これに足元で業績が上振れしているNANDメモリー事業で利益を確保し、当期利益で2000億円を確保して追加する。さらにNANDメモリーの分社・資本受け入れで3000億円、構造改革の先送りや資産売却によって3000億円を加える。

これらにより自己資本を1兆1000億円規模まで厚くし7000億円規模の損失を吸収する。ここまでやって過小資本状態を避けられれば、「3月末までの筋書きとしてはベスト」(東海東京調査センターの石野雅彦企業調査部シニアアナリスト)と説明する。

■幅広く検討

資産売却についてはグループ企業の保有株式、不動産が主な対象だ。保有株式の売却では売りやすい上場企業はもとより、非上場の子会社を含め幅広く検討する必要がある。

東芝はビル設備などの社会インフラ、発電設備などのエネルギーの両部門で幅広い製品を手がける。また近年はIoT(モノのインターネット)技術の普及拡大で、異なる製品が“つながる”事例が増えており、業界関係者は「売却先候補には困らない」と指摘する。

例えばNANDメモリーを分社した後の新会社への出資に関心を示すキヤノンが、監視カメラ事業とのシナジーを狙いに東芝エレベータ(川崎市幸区)にも出資するといったシナリオもあり得る。 NANDメモリーの分社化・資本受け入れ、資産売却で壁となるのは時間的な制約だ。3月末という“期限”までに、パートナー探し、交渉、売却といった手続きをこなす必要がある。経営スピードを上げられるかが、東芝の生き残りを左右する最大の要因となる。

“3月危機”から脱却しても、東芝の経営の不透明さは変わらない。NANDメモリーと原発事業を成長柱と位置付けた不適切会計後の経営再建策を練り直す必要がある。最大の焦点は原発事業の位置付け。ステークホルダー(利害関係者)の間では「今後もコスト増に苦しめられるのではないか」との懸念が広がっており、不安材料を払拭することが不可欠だ。

■リスク大きく

焦点は今回の損失の震源地となった米CB&Iストーン・アンド・ウェブスター(S&W)の取り扱い。東芝はS&Wを買収したことで、機器から工事までの一貫体制を確立したとメリットを説明してきたが、実際にはS&Wの手がける工事のコストが膨らみ巨額損失を招いた。機器だけでなく工事まで手がけた方が高い利益率を望めるが、その分リスクも大きくなる。東芝・ウエスチングハウスの本分は機器メーカー。東芝幹部は「原発事業は継続するべきだが、工事ビジネスまで手がけるのは厳しい」と指摘する。

(2017/1/27 05:00)

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