[ オピニオン ]
(2016/8/29 05:00)
9月7日に新モデル発表
毎年恒例の米アップルの新型iPhone(アイフォーン)の発表がいよいよ迫ってきました。これまでの報道によれば、9月7日(現地時間)にプレス向けの発表イベントが開かれ、9日に事前予約開始、16日に発売となる見通しです。
7月下旬には累計出荷台数が10億台を突破したiPhoneですが、ここに来てその勢いが減速してきています。加えて、次期モデルの「iPhone 7」(仮称)は、見た目が1世代前のiPhone 6および現行の6sとほぼ同じとされ、マイナーアップデートにとどまる模様。あまり驚きは感じられないかもしれません。スティーブ・ジョブズ氏からCEO職を引き継いで8月24日で丸5年を迎えたティム・クックCEOとしては、稼ぎ頭ともいえるiPhoneを再び上昇基調に戻すことができるのでしょうか。
ジョブズの遺産で稼ぐ
iPhoneの出荷が下降線をたどっている理由は、スマートフォンの需要一巡に加え、ユーザー側での買い替え期間の長期化、さらに中国メーカーによる低価格スマートフォンの普及が影響していると言われています。素人目からすれば、こうした時だからこそ、メジャーアップデートが期待されるのでしょうが、来年の2017年がiPhone登場から10周年の記念の年に当たるため、デザインと仕様の大掛かりな変更は来年に、という事情のようです。
それでも5年前にクック氏がCEOに就任した当時に比べ、iPhoneは驚異的なペースで売れ行きを伸ばしてきました。全体の売り上げ規模は当時の約2倍で、その牽引役となったのがiPhone。iPhoneだけの売上高を見れば約3倍となり、全売上高の3分の2近くを占めるまでになっています。
それだけに、iPhoneが2015年をピークに下落に転じていることが、投資家やサプライヤーなどをやきもきさせる大きな要因となっているわけです。さらに、iPhoneをはじめ、アップルの屋台骨を支える製品はすべてジョブズ時代の遺産にすぎない、との厳しい見方もあります。クック体制になってからのメジャー製品は腕時計型のApple Watch(アップルウオッチ)ぐらい。他社のスマートウオッチよりは売れているにしても、大ヒットというにはまだ遠い状況です。秘密裏に開発を進めているとされる電気自動車(EV)も、すぐ出てくるわけでもなく、製品化まであと何年もかかることでしょう。
クックCEO「スマホのカギはAI」
では、当のクックCEOはiPhoneの現状やこれからをどう見ているのでしょうか。ちょうど、就任丸5年を迎えたタイミングでワシントンポスト紙(8月13日付)が同CEOのインタビュー記事を載せました。その中で、クックCEOは開発中の自動車についてはまったく触れませんでしたが、iPhoneの今後にはかなり自信を持っているようです。「長期にわたってユーザー1人に1台が対応するスマートフォンは、コンシューマー製品の中でも特別な存在だ。こんな製品はほかにない。地球規模で見れば、これからスマートフォンを持つ人たちもいて、まだまだ巨大な市場となっている」と成長の可能性が大きいことを強調しました。
その上で、将来のスマートフォンのカギを握るコア技術として人工知能(AI)を挙げています。「AIはiPhoneをユーザーにとってより不可欠になるだろうし、AIによってアシスタント機能は現在より優れたものになる。今ではスマートフォンを持たずに外出するようなことはおそらくないだろうが、将来はユーザーが本当の意味でスマートフォンとつながった状態になる。性能のレベルもどんどん向上し、短期でも中期でもこれに代わる製品は出てこないだろう」。
この発言を裏付けるかのように、このところアップルによるAIスタートアップの買収が目立っています。昨年には英ケンブリッジ大学発のボーカルIQや、深層学習による画像認識技術を持つ米パーセプティオを相次ぎ買収。ボーカルIQは機械学習による対話システムを開発し、音声アシスタントのSiri(シリ)で自然な対話ができるようにするのに役立てられるかもしれません。この8月にも、シアトルに本社を置き、機械学習プラットフォームを持つトゥリを買収していたことが明らかになっています。
次の5年で驚きの新製品は?
こうしたAI技術はiPhoneばかりでなく、音声でやりとりしながらAR(拡張現実)技術で車や周囲の状況をビジュアルに表示する自動運転車や、やはり開発中と言われるアマゾンの「エコー」対抗のスピーカー型音声アシスタントにも応用されていくことでしょう。さらに、iPhoneとApple Watchで力を入れているヘルスケア関連のサービスにも、AIが導入されていくものと思われます。
現在、クックCEOは55歳。「次の5年間で何が起きるかで、クック時代の遺産が決まる」とアップル担当アナリストのジーン・ミュンスター氏はみています。今年はともかく、来年に大幅な変貌を遂げると期待されるiPhoneを含め、アップルならではのワクワクするような製品が今後どれだけ登場するか、お手並み拝見といきましょう。(デジタル編集部長・藤元正)
(2016/8/29 05:00)