[ オピニオン ]
(2016/9/15 05:00)
経済産業省と文部科学省が「理工系人材育成に関する産学官行動計画」に取り組んでいる。文科省の既存事業である「リーディング大学院」との相乗効果によって、ビジネスの第一線で活躍できる博士人材の輩出を望む。
この行動計画は、イノベーション創出に重要な理工系人材の育成方策を両省が共同で8月にまとめたもの。学部・修士、博士、初等中等の各段階で、産・学・官の各セクターが推進する取り組みを列挙している。
目を引くのは、産業界で活躍できる博士人材の育成策だ。具体的には産学共同研究への参加や、長期の研究インターンシップ(就業体験)が有効としている。共同研究に加わる学生が大学と雇用契約を結ぶことで、企業の求める秘密保持や知的財産権保護の順守を明確化。同時に企業が雇用の経費を用意する新たな仕組みを提案した。
行動計画ではさらに、文科省事業の「博士課程教育リーディングプログラム(リーディング大学院)」の効果を指摘している。この事業では俯瞰(ふかん)力と独創性を育てる狙いで、博士学生が企業の課題解決に取り組んだり、企業人メンターの助言を受けたりする事例がある。リーディング大学院への取り組みを通じて、大学側が「博士教育の目的は学術研究者の養成だけでなく、さまざまな機関のリーダー育成だ」(関係者)という意識を持ち始めた。
慶応義塾大学は、文理融合のトップリーダー育成を進めている。博士号を取る主専攻とは文理の異なる副専攻で修士号を取得させようという挑戦的なものだ。修了間際のある学生は「自らの専門性に新たな軸を加えて可能性を広げたい。その軸がどんなものであっても、対応できる自信がついた」と話す。
リーディング大学院は33大学の62件が実施中だ。1期生の修了は来春で、従来と異なる博士教育を受けた人材が年500人規模で社会に出はじめる。行動計画と相まって「博士は専門が狭く、企業の役に立たない」という従来の負のイメージが一掃されることを期待したい。
(2016/9/15 05:00)