[ オピニオン ]
(2016/11/14 07:00)
獲得選挙人数でクリントン228に対しトランプ290。11月8日(現地時間)に全米で行われた大統領選挙の開票結果はメディアや専門家の事前予想を見事に裏切ってトランプ氏が勝利し、世界を震撼させました。
世論調査も含め、なぜこれほどまでに現状分析を間違えたのでしょうか。その理由は白人労働者層だけでなく、都市部や中流層にも隠れトランプ支持者がかなり存在したなど、さまざまあるとは思いますが、メディアはそうした有権者の既成政治への怒りや不満をうまくすくい取ることができませんでした。「接戦だがクリントン優勢」という思い込みが先行して、実態を反映していない、逆の報道を展開していたようです。
一般の人が大統領選で何を話題にしているのか。実は今回、ソーシャルメディア上で交わされているすべての大統領選関連の話題を人工知能(AI)で読み解く試みが初めて行われました。マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボのソーシャルマシン研究所による「エレクトーム(Electome)」プロジェクトがそれです。
機械学習アルゴリズムを駆使して大統領選についての30の英語メディア報道とツイッターでのつぶやきや会話を読み取って分類し、テーマごと、州ごとに、どういったテーマで、どちらの候補の話題がどれだけ取り上げられているか、報道内容とツイートの関わり方はどうか、などをほぼリアルタイムで分析できるといいます。しかも、このプロジェクトにはナイト財団やツイッターほか、ワシントン・ポスト、CNN、ブルームバーグといった大手メディアもパートナーとしてかかわっていました。
そのうち、ワシントン・ポストは投票日から約3週間前の10月19日の報道で、同紙による世論調査では激戦州でクリントン優勢としていました。一方、同じ記事の中で、エレクトームによる分析では10月8日以降、大統領選関連でトランプ氏についてのツイートはクリントン氏についてのものに比べ「2倍近いツイートがあった」としています。しかも、カギとなる州では、フロリダがトランプ54%対クリントン31%、ノースカロライナで57%対29%、オハイオ58%対27%、ペンシルベニア58%対27%、ミシガン59%対26%と、良くも悪くもトランプ氏が話題の中心となっていたようです(足しても100%にならないのは、それ以外の候補者や、候補者について言及しないツイートもあったため)。
こうした結果についてワシントン・ポストは、「ソーシャルメディアを使っているのは、インターネットにアクセスできる米国人の4分の1未満にすぎず、全ての有権者の幅広い議論を代表したものではない」としながらも、「ツイッターは政治の話題のハブ(拠点)となっており、これまでの状況や今現在、そして地理的にも議論の内容についての指標を提供してくれる」と選挙分析で有用なツールであることを認めています。
「AIの分析だと(選挙戦中には)トランプが勝っていた。メディアは、そんなことはあってはいけないとバイアスをかけてしまったのではないか」。9日夕方、大統領選の結果判明直後にウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が都内で開いた解説イベント。そのパネルディスカッションで、民進党の長島昭久衆議院議員は、メディアや専門家が大統領選の情勢分析を誤った理由をこう推測しました。
それに続く形で自民党の山本一太参議院議員も、「マスコミは米国の中西部や真ん中の声をすくい上げていなかった。AIは正直に、冷酷に分析するので最初からトランプ有利としていたが、それをどう分析するかは各社の自由」とメディアの責任に言及。「ブレグジット(英国のEU離脱)での国民投票の時もそうだったが、今回の大統領選は世論調査がどう変わっていくかの分岐点になるのでは」と見ています。
米大統領選は既得権益層や既成政治の敗北であるとともに、メディアの敗北でもあります。エレクトームのアップグレードなどAIの精度向上に期待がかかる一方で、選挙戦での声にならない声をきちんと反映させる世論調査の新たな仕組みも求められています。(デジタル編集部長・藤元正)
(2016/11/14 07:00)