[ 機械 ]
(2016/12/12 10:30)
工作機械の情報通信技術(ICT)化・システム化の技術開発は長く継続的に進展してきている。工作機械は内部に保有する情報(稼働・非稼働情報、運動状態情報など)を外部連携インターフェースを通して、外部の制御機器、制御ソフトウエア、管理ソフトウエアなどと、連携を取る機能を持っている。しかしながら、その連携に際して、工作機械メーカーごとに固有のインターフェースを保有している場合が多く、これまで連携できる対象および情報が限られていた。
現実と仮想融合価値創出
◇東京理科大学 理工学部 経営工学科 准教授 日比野 浩典
近年、オープンな通信プロトコル(例えば、MTConnect)および標準的ミドルウエアの技術開発が進展しつつある。これらに対応するインターフェースを持つ工作機械では、設備稼働情報(稼働・非稼働情報、運動状態情報、負荷量情報、消費エネルギー情報、故障情報、予兆関連情報など)を、設備の稼働解析・管理、生産制御、生産管理、故障対応など生産運行に対応するさまざまなソフトウエアと連携が可能になりつつある。
IoT環境下においては、現実世界(Physical)にある工作機械の前述の設備稼働情報に加え、Physicalの加工対象ワークのセンシング情報(品質情報)を、クラウドコンピューターやエッジコンピューターなどのコンピューター上の仮想世界(Cyber)に蓄積できる(図1)。蓄積されたビッグデータはCyber上の生産運行、生産準備を支援するさまざまなソフトウエアで利活用可能となる。
Cyberを利用するのは、工作機械を保有するユーザー企業のみならず、工作機械メーカー、コンサルティング企業などが考えられる。工作機械メーカーは、ユーザー企業の許可があれば遠隔診断による故障対応・保守が可能となる。
また設備稼働情報、特に負荷量情報(トルク・荷重・圧力など)および予兆情報(振動、異音など)を把握し、保守・部品交換が必要な時期を統計的解析により推定可能となり、保守部品を先行手配し、必要な時にユーザー企業へ提供することが可能となる。これにより、ユーザー企業は生産停止を免れ、工作機械メーカーは保守部品の需要予測精度が高まり、保守部品の在庫圧縮が可能となる。
進む生産の最適化
CyberとPhysicalの連携システムは、CPS(Cyber Physical System)として知られているが、製造分野ではCPPS(Cyber Physical Production System)と呼ばれ始めている。CPPSはPhysicalとCyberとを連携して、モノづくりにおいて新たな価値を創造するモノづくりマネジメントのためのシステム技術として定義される。
PhysicalのCyberへの転写率が高まるとCyberにおいて、工作機械などの生産設備単位の運行の最適化のみならず、複数の生産設備によるラインなどの生産システムの振る舞いの予測精度が進展し、さまざまな意思決定の精度が高まり、かつ意思決定の規模・範囲が大きくなる。これによりエンジニアリングチェーン、およびサプライチェーンにおける効率化が進むと考えられる。
例えば、筆者らが開発したシミュレーションでは、Cyberに蓄積された工作機械、産業用ロボットなどの生産設備の消費エネルギー情報を利用して、生産ラインの稼働に伴う消費エネルギー量を算出可能で、かつ生産量を同時に算出して、1製品当たりの必要エネルギー量である製造エネルギー原単位を机上で算出可能である(図2)。生産準備段階において、製造エネルギー原単位を最適化することが可能となる。
日本機械学会生産システム部門では、IoT環境下の生産システムの将来展望を研究テーマとした「つながるサイバー工場研究分科会CPPS(主査=筆者)」の活動を開始した。
産学官の専門家約40人の参加者により、CPPSの2040年までの将来動向について検討している。
同研究分科会では既存の生産の方法のみならず、例えば労働環境での少子高齢化社会対応生産、自然環境のサスティナブル生産および省エネルギー生産、グローバル環境でのグローバル生産などの新しい生産の方法も対象として、CPPSを実現するために必要な要素技術やリファレンスモデルなどについて整理する予定。2017年3月に中間発表を行う予定。
【11/16付本紙別刷「JIMTOF2016特集」より】
(2016/12/12 10:30)