[ ICT ]
(2016/12/30 11:30)
ソフトバンクグループの孫正義社長は2016年、世界を精力的に動き回った。6月に社長続投を宣言した直後、日本企業として過去最大となる3兆3000億円で英国企業を買収すると発表。10月にはサウジアラビア政府系ファンドとの10兆円規模の投資ファンド設立を公表し、海外要人とも相次ぎ会談した。神出鬼没だった孫氏の行動には次の時代をにらんだ攻めの意欲と同時に、守りを固めたいという思いも強くにじんだ。
◇IoTで布石
ソフトバンクGは年前半、資産売却による財務基盤の強化を進めていた。ムードが変わったのは6月だ。孫氏は「やり残したことがあり、欲が出た」と社長続投を表明し、14年に米グーグルから招いたインド出身のニケシュ・アローラ氏に社長職を禅譲する考えを撤回した。巨額報酬で迎えた意中の人と決別したのはなぜか。関係者には臆測が広がった。
その答えの一つが7月の英半導体設計大手ARM(アーム)ホールディングスの買収発表だった。同社は急速な普及が見込まれる「モノのインターネット(IoT)」に欠かせない技術を保有。孫氏は「IoTが最大のチャンスだ」と次の成長に向けた投資であると強調し、アームが10年先を見越して製品開発を進めていることも魅力だと語った。孫氏はメイ英首相にも直接会い、「(投資を)歓迎する」との言葉を引き出し、買収手続きを無事完了させた。
◇「気掛かり」な負債
孫氏は9月、韓国で4600億円の投資を、10月にはサウジ政府との10兆円ファンド設立を発表した。12月はトランプ次期米大統領と電撃的に会談し、5兆7000億円の投資などを約束。その10日後には訪日中のロシア・プーチン大統領と会い、エネルギー分野などへの投資検討の意向を伝えた。
市場はこうした動きを好感し、ソフトバンクGの株価は12月、今年最安値を付けた2月に比べ2倍近い8000円台まで上昇した。ただ、過去の大型投資で14兆円(9月末)まで膨れ上がった有利子負債に注目する市場関係者は多く、孫氏自身も「気掛かり」と公言する。
孫氏はファンド設立について、自社の借金を増やさずに投資を拡大するための「解」だったと説明。一方、トランプ氏との会談は不振の米携帯子会社のてこ入れが狙い、との見方で衆目は一致している。
成長と財務強化の二兎(にと)を追った奔走。孫氏の16年はそう捉えることができるのかもしれない。
【IoT】
「Internet of Things」の略で、家電や車、産業機器などさまざまなモノを無線通信でつなぎ、情報をやりとりする技術。家電の消費電力を減らしたり、自動運転を支援したりすることへの活用が期待され、工場の生産効率化に役立てる例もある。
ソフトバンクグループが買収した英国のARM(アーム)ホールディングスは端末に組み込む半導体で省電力設計を実現し、スマートフォンでのシェアは95%。一段の小型化やセキュリティー強化など、次世代をにらんだ技術開発も進めている。(時事)
(2016/12/30 11:30)