[ オピニオン ]
(2017/1/9 05:00)
前回はベンチャーキャピタル(VC)が予想する2017年のテクノロジートレンドを紹介しましたが、製品やサービスを提供する企業および組織は、具体的にどういった新しい概念やキーワードに注意を払うべきなのでしょうか。そこで、今回はアナリストからみたテクノロジートレンドとして、ハイテク調査会社のガートナーがまとめた「2017年の戦略テクノロジートレンドのトップ10」について見てみます。
このテクノロジートレンドは、破壊的で大きなインパクトを持っていたり、今後5年間で重要な転換点に達したりするとみられるものから10個を選び出したもの。ただ、これからの時代、企業にとってトレンドを押さえておくだけでは不十分なようです。ガートナーのリサーチ部門バイスプレジデント兼最上級アナリストを務める亦賀忠明さんは、「こうしたデジタル時代のトレンドをまず企業の経営層がしっかり理解することが大事。そして中長期の戦略のもと、優秀なソフトウエア人材の確保も含めて具体的な行動に落とし込みながら、高付加価値のビジネスへと転換を図っていくべきだ」と強く訴えます。
三つにカテゴリー分けされた10のトレンドは以下の通り。
【インテリジェント】
(学習しながら環境や変化に適応するようプログラムされたシステム)
1.人工知能(AI)と高度な機械学習
AIがロボットや自動運転車、家電などに実装されるほか、幅広いメッシュ・デバイス、既存のソフトウエア、サービスソリューションに埋め込み型のインテリジェンスを提供する。
2.インテリジェントなアプリ
仮想顧客アシスタント(VPA)など人間が行ういくつかの仕事を実行し、日々の作業を効率化する。家電製品がマイクロプロセッサーを搭載したのと同じように、今後10年間で事実上すべてのアプリ、サービスは一定レベルのAIを導入するようになる。
3.インテリジェントなモノ
周囲の環境や人と自然にやり取りする物理的なモノが増える。ドローンや自動運転車、スマート家電の普及に伴って、こうしたインテリジェントなモノは単独で稼働するのではなく、複数機種による協調モデルにシフトする。
【デジタル】
(デジタル世界と物理的な世界を融合しデジタル的に拡張された環境を作り出す)
4.仮想現実(VR)と拡張現実(AR)
VR/ARの没入型テクノロジーについて、消費者向けおよびビジネス向けコンテンツ、アプリケーションは2021年までに劇的に進化する。複数のモバイル、ウエアラブルデバイス、IoT(モノのインターネット)、それに多数のセンサー、会話システムの存在する環境で、没入型アプリケーションを個人単独ではなく、複数の人間で同時に楽しめるようになる。
5.デジタル・ツイン
物理的なモノやシステムについて、センサーからのデータを使い、状態の把握や変化への対応、運用の改善、付加価値の提供を行うソフトウエアモデルのこと。米GEなどでの取り組みが先行する。2020年までに配備されるIoTセンサーとエンドポイントの数が210億個を超えるとガートナーは見込んでいて、その時点では何十億ものデジタル・ツインが存在している可能性がある。
6.ブロックチェーンと分散型台帳
ブロックチェーンはビットコインに代表されるように、価値交換取引が連続的に「ブロック」にグループ化された分散型台帳の一種。各ブロックは前のブロックに連結され、暗号化信用保証の仕組みを取り入れながら、ピア・ツー・ピア・ネットワーク全体にわたって情報が記録される。とりわけ金融サービス関連で話題を集めているが、そのほかに音楽配信やID検証、タイトル登録、サプライチェーンといったアプリケーションが考えられる。中南米のホンジュラスでは、ブロックチェーンを利用して安全な土地権利記録システムを構築している。
【メッシュ】
(人とビジネス、デバイス、コンテンツ、サービスとを結び付け、デジタル・ビジネスの成果を提供するための3次元空間でのインテリジェント・デジタル・メッシュ)
7.会話システム
現在の代表的な会話技術として、アップルの「Siri」、グーグルの「Google Now」、アマゾンの「Alexa」、それにマイクロソフトの「Cortana」などが存在する。これらは今後さらに賢くなり、文脈に沿った話し方ができるようになる。それに伴って、モバイル機器やクラウド上でユーザーに音声サービスを提供するアプリとコンテンツが急増する。現在使われているハードウエアのインターフェースはマイクやスピーカーが付いたデバイスだが、従来型のパソコンや、スマートフォン、タブレットといったモバイル機器の枠を超え、幅広いエンドポイントに会話技術が対応するようになる。5年後には新しいタイプの会話デバイスのイノベーションが起こるとみている。
8.メッシュアプリとサービスアーキテクチャー(MASA)
マルチユーザーに対して、複数のデバイス、複数のネットワークに対応したマルチチャンネルのソリューション・アーキテクチャー。モバイルやデスクトップ機器、それにIoTなどのアプリが、バックエンドサービスの幅広いメッシュにリンクし、複数のレベルでAPI(アプリケーション・プログラム・インターフェース)を提示して、ユーザーにはデスクトップ、スマートフォン、自動車など目的のエンドポイントに最適化されたソリューションを提供する。異なるチャンネルをユーザーが移動する場合でも継続的なサービスを受けられる。
9.デジタル・テクノロジー・プラットフォーム
デジタル・ビジネスの基本的な構成要素を提供するとともに、デジタル・ビジネスを実現するのになくてはならない重要な存在。ガートナーではデジタル・ビジネスのビジネスモデルを実現するのに必要な五つのプラットフォームとして、「情報システム」「カスタマー・エクスペリエンス」「アナリティクスとインテリジェンス」「IoT」「ビジネス・エコシステム」を挙げている。
10.アダプティブ・セキュリティー・アーキテクチャー
インテリジェント・デジタル・メッシュおよび関連するデジタル・テクノロジー・プラットフォーム、アプリケーション・アーキテクチャーによって、これまでにない複雑なセキュリティーの世界が形成される。ハッカー産業が進化し、洗練されたツールによる攻撃が増えることで、セキュリティーの潜在的な脅威は増大する。従来型のセキュリティーでは不十分であり、企業などの組織は、セキュリティー検知型のアプリケーション設計や、自衛型のアプリケーション、ユーザーと接続端末の挙動分析、API保護、それにIoTやインテリジェントなアプリおよびインテリジェントなモノの脆弱性に対処する具体的なツールと技法が必要になる。
X.対応の後れ目立つ日本企業
亦賀さんによれば、上記のトレンドは「いずれも2017年から2020年にかけて重要な問題になるものばかり」とのこと。その半面、日本企業の経営層の認識はまだまだ低いようです。特にありがちなのが、「いくら儲かるのか、事例はあるのか」「ドイツだってインダストリー4.0と言いながら、まだ何も出来ていないじゃないか」といった短期的なものの見方だといいます。
「今、グローバルでデジタル技術を駆使した産業のトランスフォーメーション(変化)が起こっていて、欧米企業は5年から10年、15年のスパンでそれを実現しようと考えている。テクノロジーの進化は誰にも止められないし、もはや製造業は良いモノを作って売ればいい、という時代ではない。マインドセット(考え方)を変えないと、日本企業は世界に置いていかれることになる」。亦賀さんはこう危機感を露わにします。
来たるべき製造業とサービス業のデジタル革命に向けて、皆さんの会社の準備は大丈夫ですか?
(デジタル編集部長・藤元正)
(2017/1/9 05:00)