[ ロボット ]
(2017/2/3 05:00)
参入相次ぐドローン業界
(1)農業分野での活用
今年に入って、ドローンと人工知能(AI)というキーワードが連日新聞や雑誌を賑わせている。いまやどちらかにタッチしなければ企業にあらずといった様相だ。ドローンでは、ドローンメーカーと連携してドローンを使ったサービスを展開する大企業が相次ぐ。
農業分野ではクボタがプロドローン(名古屋市中区)と組み、2017年に農薬散布用のドローンを販売する。農薬散布に使われていた従来の無人ヘリコプターに比べて軽量、低コストで静音性が高いドローンを投入。空中用防除機の市場を攻略する。
将来的にはクボタが得意な農業用機械や営農支援サービスと連動し、圃場ごとの散布計画作成や散布履歴の確認、生育診断を可能にしたい考えだ。農機メーカーではヤンマーなどもドローンの活用を模索する。高齢化が進む農業にとって、広大な圃場を効率的に管理できるドローンは相性が良い。
(2)物流分野での活用
ドローンが物を運ぶことや倉庫を点検する役目を果たす物流分野。通信販売の楽天は、自律制御システム研究所(千葉市美浜区)に出資。両社は連携してゴルフ場内でドローンを使った配送サービスを始めた。ゴルフのプレー中に飲料やゴルフ用品をスマートフォンで頼むと、ドローンが運んできてくれる。
両社は千葉市の国家戦略特区でもドローン配送サービスを展開し、サービスの実用化を目指す。通販で購入した商品をドローンがマンションに個別配達するチャレンジも予定している。
また、物流分野ではサトーホールディングスが、ドローンと同社得意の自動認識技術とを組み合わせて自動で在庫管理や棚卸しができるシステムを開発した。読取り装置を積んだドローンが夜間に倉庫内を飛び回り、自動で在庫を管理する。人の手が届かない場所の資材・商品の管理や毒性廃棄物の管理などに適している。
今後は、広い敷地を使う中古車販売業者や危険物を扱う廃棄物処理、倉庫型小売店など幅広い業者への提案活動を進めるという。
島しょ部や山間部など、トラック輸送が難しい場所への輸送手段としてもドローンが注目される。
日立造船は、準天頂衛星システムを使ってセンチメートル単位で高精度に位置を把握しつつ、ドローンの自動飛行で日用品や医薬品を離島へ配送する実証実験を2016年11 月に始める予定だ。熊本県や熊本大学、大手配送業者などと連携して2020年の実用化を目指す。準天頂衛星を活用したドローンの産業利用は初めてで、観測や農業、防災など幅広い応用分野を見込む。
インフラ点検でドローンの活躍に期待
インフラの老朽化が進む日本にとって、橋梁やトンネル、高架など構造物の点検を効率化することは社会的な課題と言える。当然、各社がドローンを使った点検作業サービスを模索しているが、すべてをフォローするのは至難の業だ。最近の動きを紹介する。
東芝とアルパインは2016年9月、ドローンを使った電力インフラの巡視・点検事業について提携することで合意した。
東芝が得意とする画像処理やIoT(モノのインターネット)技術と、アルパインの地図情報や車載技術を融合。ドローンによって効率良く短時間で電力インフラを巡視・点検できるシステムを共同で開発する。2017年度中に実用化し、電力会社などに向け提案していく。
デンソーは、クルマの制御や衝突防止の技術を活かし、「産業用ドローンとして世界最高の性能」(加藤直也Robotics 開発室長)を発揮させるべく、ヒロボー(広島県府中市)と組んでドローンによる橋梁などのインフラ点検の市場を開拓する。2018年頃までの事業化を目指している。
パナソニックはプロドローンと専用ドローンの共同開発契約を締結した。すでに外側にモーター付き車輪を備え、橋の裏側を密着して移動する試作機を開発済みだという。0.1ミリメートル程度の細かい傷を発見する映像撮影・解析技術にもめどを付けた。センサーを使った障害物回避機能を持ち、安定した位置の保持や安全な飛行を半自動で行うドローンの開発を進めている。
現在は人間が肉眼で点検している作業の一部を代替する。国内には約70 万の橋があり、2023年には43%が耐用年数を超えるとされる。これらの橋を定期点検して経時劣化を早期発見し、予防・計画的に補修することで大規模費用の発生を抑える。2017年度以降をめどに点検事業者向けサービスを始める考えだ。
ドローンメーカーの動きも活発
突如として訪れたドローンブームを受け、国内外のドローンメーカーの動きも活発化している。特に目立つのは大企業からの出資の受入れや協業だ。
千葉大学の野波特別教授が立ち上げた自律制御システム研究所は楽天などから出資を受けた。千葉県内での実証実験や複数のドローンを管制するシステムの構築を進める。
プロドローンは、キヤノンマーケティングジャパンからの出資を受け入れた。同社は産業用ドローンのカスタマイズやソフトウェア提供がおもな業務。クボタやパナソニックなど大手企業とも連携している。
キヤノンマーケティングは、プロドローンの製品にキヤノン製の映像入力機器を搭載していきたい考え。併せてプロドローンのドローン販売も行う。ドローンは今後、高度な画像認識技術の活用が進むことが必至。画像技術を持つ企業にとって新市場としての期待が大きい。
エンルート(埼玉県ふじみ野市)への出資を決めたのはスカパーJSATグループの衛星ネットワーク。今後、インフラ保守・点検や測量、農業など幅広い分野へのサービス提供を進めるほか、衛星通信を搭載したドローンによる長距離運行を実現し、離島や山間部への緊急物資の輸送、災害地域での情報収集、山岳遭難などの人命救助などへのソリューション展開を進める。
エンルートは累計販売台数1000台を超える国内最大手の産業用ドローンメーカー。近年は画像処理による制御に注力し、不審ドローンを捕獲するシステムや、AI技術を使った安全運行、農作地を荒らす鹿など害獣対策のシステムなど幅広い分野へのドローン応用を進めている。
ドローンメーカーはベンチャー企業が中心で開発へ投入できるリソースが少ない。今後もドローンメーカーと大企業との資本・業務提携が相次ぐと見られる。
新しくドローンメーカーとなる企業群
もちろん新規参入も数多い。電動バイクのテラモーターズ(東京都渋谷区)は蓄電池の技術を活かしてドローンを扱う新会社テラドローン(同)を立ち上げた。
ドローン空撮での各種解析などを手がけるリカノス(山形市)のドローン関連技術を譲受しており、ドローンによる土木・建築分野での測量サービスや農業分野への展開を進める。2017年2月期に10億円の売上げを目指している。
ソニーグループのソニーモバイルコミュニケーションズ(東京都港区)と自動運転などロボット技術で知られるZMP(東京都文京区)は、共同出資でドローンを扱う新会社エアロセンスを立ち上げた。2016年内にサービスを始める。
エアロセンスが開発したドローンは離着陸、飛行、撮影といった流れを自動で実行できる。建築、土木、農業などの分野での活用を促し、ドローン事業で2020年に100億円の売上げを目指す。
運用予定のマルチコプター型ドローンは本体の動作に加え、フライトパス(飛行経路)の生成なども自動化できるのが特徴。それにより空撮データの効率的な取得を促して差別化する。
ソニーの画像認識技術、ZMPの自動運転技術などを組み合わせ、ドローン本体やクラウドによるデータ収集・活用システムも開発した。エアロセンスの最高経営責任者(CEO)であるZMPの谷口恒社長は、「建築現場の施工管理など、さまざまな分野で活用してもらえるはず」と語る。
民生用最大手も産業用に参入
海外勢の動きも激しい。民生用ドローン最大手の中国DJIは、民生で培った技術を活かし、産業用ドローンへの展開を積極化している。DJIの日本法人であるDJIジャパン(東京都港区)は、2016年4月に大日本猟友会、スカイシーカー(東京都板橋区)とドローンを使ったニホンジカなど野生鳥獣の生息調査について連携することで合意した。
ニホンジカの個体数増による農作物への被害増加を受けたもの。スカイシーカーが開発したドローンによる動物生息状況調査方法を活用し、正確な個体数の把握と適切な農業への被害防止策の立案を目指す。DJI はスカイシーカーへドローンの機材提供や開発サポートを行う。
また9月には岐阜県美濃加茂市とドローンの包括連携協定を結んだ。ドローンの活用により美濃加茂市を中心とする周辺地域の活性化に寄与することを目指す。DJIが最新のドローン「DJIファントム4」を無償貸与。同機が美濃加茂市の広報係になり、災害時の情報収集やインフラ施設の点検、高校での研究などに寄与する。
同じ民生用ドローン大手であるフランスのパロットも、ドローンに搭載できる農業用の小型波長センサーを開発するなど農業分野への展開を進めている。産業利用に必要な飛行の安定性や、周辺の環境が整いつつあるドローン。しばらくは多くのドローンメーカーや、ドローンを活用するサービスを扱う企業がどんどんニュースを提供してくれるだろう。
(2017/2/3 05:00)