[ オピニオン ]
(2017/2/27 05:00)
産業用ロボットの中でも、人間に近い場所で人間と協調しながら作業が行える「協働ロボット」が最近注目の的となっています。しかもこの分野には、大手ロボットメーカーに加え、デンマークのユニバーサルロボットや米リシンク・ロボティクス、産業技術総合研究所発のライフロボティクスといった新顔が続々と参入し、市場がかなり活気づいています。
BMWのお膝元、ドイツ・ミュンヘンで2016年に創業したばかりのフランカ・エミカ(Franka Emika)も、そうした次世代ロボットベンチャーの一つ。ドイツ航空宇宙センター(DLR)で実施された研究プロジェクトの成果をもとに、ハノーバー大学自動制御研究所所長のサミ・ハダディン教授と、CEOを務めるフィリップ・ツィメルマンさんが共同で会社を立ち上げました。
「当社は、ロボットを作るロボットを世界で初めて実現しました」。2月22日に日本貿易振興機構(ジェトロ)の日独中小企業ビジネス商談会に参加したツィメルマンさんは、こう言って自社開発のロボットの手先の器用さをアピールしていました。その後、話をうかがったところ、「あれは、”偽ニュース”ではありませんよ。実際にこのロボットを作る生産ラインに導入していますから」と、誇大広告ではなく実用レベルである点を強調していました。
一方で、ロボット自体は本体重量18.5キログラム、可搬質量3キログラムと小ぶりですが、最大の特徴は7軸の関節全てにトルクセンサーが内蔵されていることです。
ロボットハンドが対象物に物理的に接した時の弾力や振動、摩擦といった力を3次元的な方向を含めてミリ秒単位で検出し、詳細なコンピューターモデルと比較しながら、与えられた作業を「まるで人間の腕のようなフレキシブルな動作で」(ツィメルマンさん)実行し、部品・部材の挿入や結合、ねじ止めといった微妙な組み立て作業、あるいは製品の検査などを自動化できるといいます。
それに加えて、軽量で導入しやすく、手でロボットを動かしながらの一連の動作ティーチングのほか、まるでスマートフォンアプリを操作するような形で、わずか数分でロボットのプログラミングが行えるということです。しかも、いったん開発した動作手順やソリューションは、独自のクラウドネットワークを使って世界中の同社製ロボットで共有できるようにしてあるとのこと。
中でも一番向いていそうな用途は、パソコンなど電子機器の組み立てや、スマートフォンを組み立てた後のタッチパネル画面の繰り返し試験など。単純作業である半面、微妙な力の加減が必要になるため、なかなか自動化が難しい分野でもあります。そうした理由から、大量の労働者を抱えながら人件費の上昇に直面するアジアの電子機器製造受託サービス(EMS)が最も有力なターゲットと見ています。
受注は2016年12月に開始し、現在、ミュンヘン近郊の協力工場で量産に入ったところ。今年の夏後半には出荷を始める予定ですが、ツィメルマンさんによれば、すでに何百台もの注文があり、中国や韓国、米国、南米のほか、日本の電機・自動車の関連企業からも受注が舞い込んでいるとのこと。値段は1台9900ユーロ(約120万円)で、「競合の大手ロボットメーカーの10分の1近い価格」(同)も売り物となっています。
では、フランカ・エミカの将来ビジョンはどういったものでしょうか。実は極めて単純かつ明快です。
「このロボットで、製造業でのコストの大幅低減およびシステムインテグレーション時間の大幅圧縮に貢献し、フレキシブルな自動化の実現に貢献する。誰でもロボットを購入でき、安全に使えるコモディティー(日用品)のような身近な技術とすることで、我々は『ロボットの民主化』を実現していく」とツィメルマンさん。
どうやらEMSの主要立地拠点の国では、政治体制の民主化よりも、ロボットの民主化の方が先に進んで行くことになりそうです。(デジタル編集部長・藤元正)
(2017/2/27 05:00)