[ ICT ]
(2017/5/24 05:00)
米グーグル傘下で人工知能(AI)を研究開発する英ディープマインドの囲碁AI「アルファ碁」が23日、世界最強の中国人棋士、柯潔(か・けつ)九段との3番勝負の初戦を勝利で飾った。先手黒有利のハンディ戦により石の数が0.5個差の半目(はんもく)という僅差で勝負が決し、両者の実力はほぼ互角。とはいえ、昨年3月に韓国のトップ棋士、イ・セドル九段と対戦した時に比べ、アルファ碁の性能は格段に向上しているようだ。
ディープマインドのデミス・ハサビス共同創業者兼CEOらは対戦後の記者会見で、アルゴリズムを改良した今回の「アルファ碁マスター」が、「イ・セドル九段との対戦時より計算量を10分の1に削減している」ことを明らかにした。
しかもグーグルクラウド経由で機能を提供する単体マシンに搭載された機械学習チップには、汎用GPUではなく、自前で開発した「TPU(テンソル・プロセッシング・ユニット)」を使う。改良版には17日の「グーグルI/O 2017」で発表した第2世代TPUを採用していると見られ、ハードウエアの演算処理能力も大幅に引き上げた。
実はアルファ碁は自己学習だけではなく、人間のトップ棋士との対戦でも実力を磨いている。昨年3月の勝負ではイ・セドル九段がAIのわずかな弱点をついて辛くも1勝をもぎ取った。ハサビスCEOによれば、「ディープマインド(の開発者)やアルファ碁自身も知らない弱みを人間との対戦で浮き彫りにし、そうしたギャップを埋めることでAIをさらに強くしている」という。
それでも今回、僅差での勝利だったことについては、「あくまでゲームに勝つことの可能性を最大限に置き、大差で勝つことを目的にしたアルゴリズムではないため。それらはトレードオフの関係にある」と説明した。
加えて同CEOは、「囲碁はミステリアスで果てしない可能性を持った素晴らしいゲーム。AIをツールとして使うことで、囲碁コミュニティーでの知識の発展に役立てていってほしい」とも期待する。つまり、現時点では人間の能力を拡張するのにAIを使うと同時に、AIの弱点を補強し性能向上を図るために人間の能力を活用するという、両者の相互依存関係が重要との指摘だ。囲碁にとどまらず、AIを使って科学や医療をはじめ、人間の専門知識が必要とされる分野の技術革新につなげる方針も打ち出している。
こうした改良版アルファ碁には、多方面から関心が寄せられているが、数カ月内に論文が学術誌に掲載される予定だという。前回も2016年1月にアルファ碁についての初の論文が英科学誌ネイチャーに発表され、そこから囲碁AIの人気に火がついた。
一方、柯潔九段は会見で「アルファ碁は人間対人間では絶対に打たないような手を繰り出し、後になってそれが良い手だとわかった。最初は人間みたいだと思っていたが、人間とは完全に違う、まるで囲碁の神様のようだ」と驚きをあらわにするとともに、「残りの対戦でもベストを尽くす」と言葉に力を込めた。今回の3番勝負以降、「囲碁AIとの対戦は行わない」とも明言した。
(2017/5/24 05:00)