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ゲリラ豪雨への備え-雨水流出抑制と自治体の取り組み

(2017/6/19 05:00)

業界展望台

 「ゲリラ豪雨」と呼ばれる集中豪雨が頻発しており、各地で浸水被害が起きている。都市化による雨水の流出増加が問題となっており、地域全体で雨水が流出しにくいまちづくりに取り組まなくてはならない。ゲリラ豪雨への対策となる雨水流出抑制に関する施策と自治体の取り組みについてまとめた。

年々増える集中豪雨

都市部で総合治水を

 近年、集中豪雨が多く発生しており、1時間当たりの雨量が100ミリメートルを超える豪雨も決して珍しくはない。全国のアメダスデータによると、時間雨量50ミリメートル以上の降雨の発生回数は1976年から2016年にかけて増加傾向にあり、平均すると10年ごとに22回増加している。16年は50ミリメートル以上の「非常に激しい雨」が257回、80ミリメートル以上の「猛烈な雨」が21回となっている。

 特に都市部では、地表近くの温度が郊外に比べて上昇するヒートアイランド現象や建築物の高層化によって上昇気流が起こりやすいため、ゲリラ豪雨が発生しやすいとされている。

 このような都市部でのゲリラ豪雨の増加や、市街化によるピーク流出量の増大などによって、人命や社会生活に影響を与える被害が発生している。一刻も早い浸水被害の解消が課題となっている。

 今まで田畑や山林だった場所が市街化すると治水上の新たな問題が起こる。それまでは雨が降ると雨水が田畑などの地面にたまったり浸透したりして、ゆっくりと河川に流れ込んでいた。しかし、雨が降った場所が市街化すると、雨水はその場に浸透できない。行き場を失った雨水は河川にそのまま流れ込むため、開発が進んだ流域では大雨になると一気に河川の水量が増える。これが近年の洪水被害につながっている。

 従来、洪水の危険がある河川では川幅を広げたり川底を掘り下げたりすることで、沿岸を洪水被害から守ってきた。しかし、河川改修は長い期間を要するため、都市開発のスピードに追い付くことができない。そこで「総合治水」という治水対策が取られるようになった。

 総合治水とは河道の拡幅や放水路、遊水池・調節池を整備する「河川改修」、流域に雨水貯留施設などをつくり雨水をためて河川への流出を抑制する「流域対策」、浸水実績の公表や耐水性建築の奨励などを行う「被害軽減対策」の三つの対策を総合的に行うことで治水上の安全を確保するというものである。

面的考え方が重要

 都市部での治水対策としては、1977年の河川審議会中間答申で、総合治水対策を強力に推進すること、必要な制度の確立などが挙げられたことを受け、総合的な治水対策の取り組みが始まった。以来、河川部だけでなく流域一帯で面的な治水対策を行うという姿勢に転換しつつある。

 雨水貯留浸透技術協会の忌部正博常務理事は、面的な対策の利点について「治水を小規模分散型にすることで、どこで集中豪雨があっても対応できる。工事費用も安く済む」と語る。

 総合治水を面的に行うため、自治体ごとに豪雨対策が取られている。その中身は河川整備、下水道整備、流域対策に加えて、浸水被害に関する情報や災害発生時の体制の整備などを行うハード対策・ソフト対策を含めた施策全般である。

公園地下に貯留槽

 流域でできる豪雨対策の一つに、流域内に降った雨水を河川や下水道に流さないようにする雨水流出抑制の対策がある。対策として設置する施設には、遊水池や調整池、貯留槽などの貯留施設と、浸透ますや浸透トレンチ、透水性舗装などの浸透施設がある。

 東京都世田谷区では2009年に「世田谷区豪雨対策基本方針」を策定し、雨水の流出を抑える流域対策の強化に取り組んでいる。これに加え、区民自らが生命と財産を守る「家づくり・まちづくり対策」の促進と「避難方策」の強化も進めている。

  • 世田谷区では区民がいつでも土のうを使えるよう土のうステーションを52カ所に設けている

 05年9月、東京23区西部を中心とした1時間当たりの雨量が100ミリメートルを超えるゲリラ豪雨が発生した。世田谷区では河川や下水道から水があふれ出し、床上浸水221棟、床下浸水245棟の被害があった。13年には区内で断続的に60ミリメートルを超える降雨があり、床上・床下浸水が多く発生している。

 区では流域対策の目標として、37年までに区内全域で1時間当たり10ミリメートル降雨相当(世田谷区全域で約96万立方メートル)の雨水流出抑制の実現を掲げる。

 具体的な取り組みとしては、世田谷区が管理している教育施設、公園、事業所・住宅、道路で雨水貯留浸透施設の設置を強化している。また、宅地に雨水流出抑制の設備を設置する際に費用を助成するなど、民間施設への設置も推奨している。

 13年に開園した二子玉川公園では地下に貯留槽や浸透ますを埋設し、3800立方メートルの雨水を貯留・浸透できるようにした。周辺道路にも透水性舗装を施し、その地下には雨水を貯留できる貯留槽を設けた。

  • 二子玉川公園の地下に埋設されている雨水貯留槽(世田谷区提供)

 また、住民が自らを守る「自助」による対策を促進するため、浸水の予想される区域や浸水の程度、避難場所などの情報を記載した「世田谷区洪水ハザードマップ」を配布し、住民に情報提供を行っている。

 世田谷区土木部土木計画課河川・雨水対策担当の安藤英博係長は「流域対策は住民の理解が必要。目標達成に向け地道に進めている」と話す。

雨水貯留浸透の技術

軽量材や基盤材採用

 雨水流出抑制の設備の一つとしてプラスチック貯留材の普及が進んでいる。地下に埋設される雨水貯留槽の施工が始まった当初はコンクリート製が主流だったが、近年プラスチック製が主流となっている。プラスチック貯留材は多くの隙間を持つ構造体で、貯留槽内に積み上げ、隙間に水をためる。軽量のため重機を必要とせず、コンクリート工法のような養生期間が不要なので工期を大幅に短縮できる。区画整理時や造成地の公園の地下、大型店舗の駐車場の地下などに採用されている。

 また、自然の循環を都市のシステムに組み込む「グリーンインフラ」の発想を取り入れた技術として、貯留浸透基盤材も注目されている。腐植(土壌有機物)をコーティングした砕石を植栽基盤として利用することで、雨水を貯留・浸透させるだけでなく、水分を樹木の根が吸収し、葉からの蒸散作用で周囲を冷やす。貯留槽に比べると水をためられる隙間は少ないが、基礎工事が不要で掘削した穴に運び込んで転圧するだけで済む。ゲリラ豪雨対策と夏に冷えるまちづくりを同時に実現できそうだ。

  • 植栽されたくぼ地(レインガーデン)も雨水流出抑制効果がある(世田谷区上用賀公園)

 ハード面を整備しても想定を上回る豪雨被害は起こり、行政による対策のみでは緊急に浸水被害を防止することは難しい。民間が協力して雨水貯留・浸透施設を備えるなど、官民一体となった「雨に強いまちづくり」が望まれている。

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(2017/6/19 05:00)

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