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(2017/11/18 07:00)
生活者研究の「センミツ(千に三つ)」
とても古い話で恐縮ですが、バブル時代に雨後の筍のごとく各社に生まれた「企業内生活文化研究所」の一つを預かっていました。私のいた建材・住宅設備業界では「洗髪洗面化粧台」いわゆる「朝シャン・ドレッサー」のヒットが、まことしやかに「従来の施主(大人・親)ではなく、女子中高生のニーズが生み出した商品」と言われ、これまでの市場調査の死角を探るべく各社で「生活(者)研究」が取り組まれ始めました。しかし、具体的な商品企画と違い、前例のない基礎研究業務は全く手探りの状態でした。
方法論の定まらない生活基礎研究でしたから、私はベーシックな情報の収集整理から始めることにしました。バブル期でしたから調査費はそこそこありましたが、なかなか規模の大きな調査は難しく、そんな時に通販ルートを使った廉価なアンケート調査を知りました。水回りの空間別にまずはお風呂から、サイズや仕様、使っているモノなどを基本的な設問にし、最後に1問だけ自由記述「お風呂にまつわる話」を尋ねました。
結果、回答のまばらな自由記述の中に「電気を消して瞑想している」とか、「ロウソクの明かりの中でワインを片手に」などという“ヘンな”女性がちらほらと現れて、定量データの集計結果より、そちらの方が気になって仕方ありませんでした。それはまさに、「センミツ(千に三つ)」の世界でした。
お風呂における潜在ニーズ
「お風呂の中で何か“生活行為”をしている人がいるらしい」という気になる情報を元に、次に「お風呂ですること、したいこと」という調査を企画しました。一応、出来そうなことを想定して仮の事例を立てながらも、自由な回答を求めました。結果として、「現在お風呂でしていること」は、1位が「子どもと入浴」、次いで「顔の手入れ」、「体の手入れ」、「歯を磨く」等が上がり、大方予想の範囲でした。
次に「お風呂でしてみたいこと」を尋ねると、1位が「CDを聴く」、次いで「テレビを観る」、「お酒を飲む」等が上がり、新たな商品開発のニーズがありそうでした。
しかし、私はどうもこの結果に違和感を持ち、現場百回とばかりに“捜査資料”を繰り返し眺めました。そして気付いたのは、一方で「やればいいのに何故やらないの?」という「飲食」や「マッサージ」、「エクササイズ」等に対する回答数の多さでした。ちなみにこれらの行為は「お風呂でなくてもできる」ということも自明でした。
では何故「お風呂でしたい」のでしょうか?むしろ、そのことの方が大きな意味を含んでいます。その内容を読み解いてみると、仮説として、(1)「バブル期までに質は向上したが、狭いウサギ小屋の日本家庭で一人の時間を持てるのはお風呂とトイレだけ」、(2)「裸の開放感があり、温浴でリラックスできる」といったことが調べるまでもなく浮かび、そして、その欲求が満たされない訳は、当時のお風呂事情にあることにも気付きます。
記憶にある方もいらっしゃると思いますが、当時の平均的な家庭用ユニットバスのサイズは1200mm×1600mm。浴槽は膝を曲げて入るものが主流で、照明はおそらく60Wが一つ。小さな換気扇だけで、窓があっても湿気が多くカビの温床、そんな環境でした。そんな空間で無理してトライするくらいなら、早々に引き上げてリビングや自室で過ごす方がやっぱり快適というわけです。
そして当時、私の出した結論は、入浴にまつわる様々な潜在ニーズを満たすには、まずは「浴室の“居住性”の向上」にあり、「お風呂で“過ごす”」がキーワード、というものでした。
データを「読み解く」とは?
データは基本的にはウソを言いませんが、短絡的に事実を読み間違えると良い結論は得られません。このケースも面白おかしく尾ひれをつければ、バブリーなAV浴室が誕生していたかもしれません。しかし、データを「読み解き」、あるいは「ウラ読み」をしてみることで、直接的なユーザーの声が聞こえなくても、潜在ニーズを拾うことができるということを、生活文化研究の初歩で学んだ好事例でした。
現代のお風呂を見てください。浴室換気乾燥機は当たり前、乾燥しやすい床材に防かび・防汚仕様の部材、照明も明るくなり、テレビや音楽も楽しめ大きな鏡で広々とした視界が開けています。そして、日本の風呂文化を大きく変えたのは、ぬるめのお湯に長く浸かり、その時間を有効に活用できる“半身浴”の普及にあります。
まさしく浴室居住性の進化にタイムリーにマッチして、またたく間に市民権を得て今や知らない人はいないほど普及した健康入浴法の提案に至る流れと顛末は、次の機会に。
(毎週土曜日掲載)
(『新製品情報』2014年11月号掲載)
【著者紹介】
竹見 太郎
イメージライト研究所 研究主幹 イメージライター、消費生活アドバイザー(内閣総理大臣及び経済産業大臣事業認定資格)
元INAX生活者研究室・室長時代に、入浴スタイル研究から「半身浴」を発掘・提案し今日の普及に大きく寄与した。また、「伊奈製陶」から「INAX」への社名変更を含む全社員運動のCIセンターも担当。『半身浴ABC』発刊。元生活情報誌『い~な』編集長。東京都出身。
(2017/11/18 07:00)