[ トピックス ]
(2017/11/24 05:00)
【日本企業の経営へのインパクトをどう考えるべきか ~基本的な考え方~】
製造ノウハウの形式知化・デジタル化・組織知化の重要性
日本の製造業においては、「製造ノウハウの組織知化」への取組みが遅れていることが理由で、生産技術部門が多忙な企業が多いと考えられる。例えば、「海外工場の立ち上げを任され、当初は一年で品質を安定させ人材育成を終えて帰国しようと思ったが、結局18カ月かかりようやく品質が安定したので帰国した。しかしながら、帰国後1カ月を経ない間に、現地より「品質が安定しない」と連絡があり再度地球の裏側へ出張しなければいけない」という企業は少なくない。
統計的には明らかには把握できていないが、筆者の経験では、リーマンショック以降、短期収益を重視するあまり生産技術部門の縮小を図った企業も多いと感じる。生産技術部門の人材資源は容易に拡充できない。生産技術の人的資源が事業拡大の制約になっている企業も少なくないのではないだろうか。
スマートなマザー工場の重要性
「スマートなマザー工場」(中枢のコントロールセンターを構築し、製造ノウハウの知識データベースを提供することで海外生産拠点では未熟練労働者でも熟練労働者並の製造が可能とする仕組み)を整備し、いつでもどこでもスケーラブルに拠点展開、撤退をできる機動力を構築することは極めて重要と考えられる。
機動力は、設備投資、拠点展開、M&Aなどの大きな投資を伴う意思決定をできるだけ遅らせ、不確実な意思決定を回避することに貢献する。逆説的であるが、機動力があれば、“一か八かではあるが、今、意思決定しないと間に合わない”ということは少なくなる。意思決定上の自由度を確保することは、経営戦略上極めて重要である。
課題も多い。日本企業によく観察される「各工場を競わせることで生産性を向上させる」という管理手法のままでは、「共通知識データベース」の構築に各工場を協力させることは容易ではない。この場合は、製造ノウハウが各工場の現場にあり、そもそも中枢に製造ノウハウが蓄積されていないことが多い。
「製造プラットフォームサービス事業」への展開
スマートなマザー工場が構築できたとすると「製造プラットフォームサービス事業」への展開は容易とも考えられる。しかしながら、「製造プラットフォームサービス事業」への投資価値を理解することは必ずしも容易ではない。それは「製造プラットフォームサービス事業」のねらいが、株式価値(時価総額)の拡大という経営戦略であり、いわゆる現場感覚からは遠いからである。
「製造プラットフォームサービス事業」が株式時価総額を拡大する理由は3つある。第1に、生産設備の販売事業は景気に大きく左右されるが、サービス事業は比較的収益が安定した事業であること。第2に、大きな設備投資が必要な製造業と比較すると、限界費用ゼロのソフトウェア中心であるためROA(総資産利益率)が高いこと。第3に、新興国へ今すぐに参入でき、投資家に対して成長性を訴求できることである。
安定した収益、ROAの高さ、成長性が揃うと、たとえ売上規模が小さくとも資本市場は高く評価し、株式時価総額の拡大が期待できる。株式時価総額の拡大が重要なのは、M&Aなどの資本市場での競争優位を確保できるからである。
必要となる「バリューチェインのポートフォリオ」戦略
自社独自のITプラットフォームの整備に期間を要し、自社の製造ノウハウの形式知化・デジタル化・組織知化が、自社単独では難しい場合は、外部プラットフォームサービスの活用によるスケーラブルな事業展開力を早期に獲得することも重要な選択肢となる。
バリューチェインの中での自社のコア(競争優位性)は何かを見定め、コア領域についてはITを活用してブラックボックス化し、一方、ノンコア領域については、世界中の最も優れた外部プラットフォームサービスを活用することによって時間を買うという戦略、いわばバリューチェインのポートフォリオ戦略を、本格的に考えるべきである。
(隔週金曜日に掲載)
【著者紹介】
(2017/11/24 05:00)