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(2017/11/10 05:00)
【欧米企業にみるインダストリー4.0の事例】
インダストリー4.0は幅広い活動を包括している。このため応用ケースの一要素として自律分散型制御システム、マスカスタマイイゼーションなどの前述の報告書で例示された個々のビジネスケースをインダストリー4.0の例として取り上げる向きも多い。しかしながら、筆者は、個々のビジネスケースを統合した形で提示されている「スマートなマザー工場」と「製造プラットフォームサービス事業」の展開との大きく2つの萌芽事例に特に注目するべきと考えている。
「スマートなマザー工場」の事例:ボッシュ社ブライヒャッハ工場
スマートなマザー工場の例は、ボッシュ社のブライヒャッハ工場が有名である。既に同種の製品を製造する世界11の自動車部品工場群、5000の標準設備をネットワークしたスマートなマザー工場を運用している。
ブライヒャッハ工場では、いわゆるチョコ停(設備の瞬時停止)の発生原因などの現場経験を共通知識データベース化し、世界中の同様の工場で活用できるようにしている。また、過去に類似の問題がないようなケースでは、工場の現場から中枢のセンターを呼び出し、高度なエンジニアリング分析に基づき問題解決のアドバイスを行う。この解決結果はまたさらに共通知識データベースへ書き込まれる仕組みとなっている。
ボッシュ社のこうした仕組みが構築できる理由は、ブライヒャッハ工場及び同種の製品を製造する世界11拠点の工場で全てボッシュが製造した標準の工作機械を活用しているからである。工作機械とPLC(プログラマブルロジックコントローラー)などの制御機器などが、工場によりバラバラだとこのような「スマートなマザー工場」の実現は今のところ容易ではないといえよう。
しかし、現在行われているインダストリー4.0のモジュール化、モジュール間インターフェースの標準化が進展すると、標準に対応した工作機械であれば、必ずしもボッシュ製の工作機械でなくとも、全てネットワークの中に取り込むことが可能となる。こうすることで、さらに幅広い範囲の工場群において、スマートなマザー工場の整備・運用が可能となると予想される。
「製造プラットフォームサービス事業」の事例:シーメンス社のサービス
シーメンス社は、2007年より約数1兆円をかけて、M&Aを重ねてきた複数のソフトウェアプロダクトを、製品設計や生産設備設計の領域でのPLM(製品ライフサイクル管理)、及び生産加工設計、生産実行管理等の領域でのソリューションに統合し、エンドツーエンドのエンジニアリングチェーンを、一つの連携したアプリケーションの下でサービスできる体制を実現しつつある。
さらに、シーメンス社は、顧客企業の生産技術部門の機能を代替し、いわゆる生産準備工程(生産設備の設計から調達、整備)の業務に加え、継続的な生産性向上活動、瞬時停止の原因分析や予知保全等の業務全般をサービスとして提供するという、いわば「製造プラットフォームサービス事業」を始めている。
具体的には、BMWと中国(Brilliance社)との合弁工場においてシーメンス社が行っているサービスがそれである。この工場では、①フルターンキーサービス(設計から機器・資材・役務の調達、建設及び試運転までの全業務を一括して請け負う契約)での納入②現地作業員は単純な制御を担うのみで、習熟が不要、であるにもかかわらず③BMWの全車種の一本の生産ラインでの製造(変種変量生産)④99%以上の高い稼働率と高品質の生産を実現したとされている。
経済産業省の「日本の稼ぐ力創出研究会」(2014年12月)でも、先述のシーメンスのフルターンキーサービスが話題となっている。インダストリー4.0型の生産システムは、現地作業員に高い習熟を要しないことに対し、日本型の変種変量生産は、習熟を必要とすることが特徴である。もっとも、ようやく習熟した段階で転職される傾向も否定できない。この場合生産規模を拡大しようにも人材が足りない。ノウハウが漏えいするリスクもある。何より、習熟するまで数年の期間を要すること自体問題でもある。
経済産業省の前述の委員会では、約3年前、既に「Industrie4.0型の生産システムが、競争優位を持つ可能性がある。」と警鐘を鳴らしていたことは注目に値する。
(隔週金曜日に掲載)
【著者紹介】
(2017/11/10 05:00)