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(2017/12/8 05:00)
【日本企業の経営へのインパクトをどう考えるべきか ~各論編①~】
インダストリー4.0に対する日本企業の適応の考え方は、業種や企業規模により大きく異なる。本稿では、便宜上製造設備製造業とユーザー製造業とを区分し、まずユーザー企業についてさらに大企業、中小企業と区分し、戦略の大きな方向を提案する。
1 大手製造業(自動車OEM、大手自動車部品など)の場合
大手製造業、特に自動車の大手部品メーカーなどの立場は比較的明解である。中長期の競争力を堅持することを目標に、グローバルに見た最適な生産システムを常に維持し続けることである。このため、生産設備産業のソフト・ハードを含めたモジュール化は、イノベーションの追い風となる。
この業種においては、既に販売活動・生産活動での日本国内シェアは50%より小さいところが多い。海外拠点のマネジメント水準によっては、本社の意向で生産設備メーカーやソフトウエアすべてを日本製としなければならない理由もないだろう。このため、むしろ常に最適な仕組みを選択でき、組み換えていくための仕組みをあらかじめ構築しておくことが競争戦略上のリスクヘッジとなるかもしれない。一概には言えないが特定グループ固有の技術に依存することは、むしろリスクマネジメント上、必ずしも正しくない可能性も高い。
むしろ大手製造業の課題は、「グローバルオペレーションの再設計、および生産技術管理機能の再構築」である。今後急拡大する世界中の生産拠点のスピーディーな立ち上げと量産オペレーション・品質管理の両立を、「現地+本社工場からの人的支援」という方法のままで、かつ現在の生産技術組織の限られた人的資源だけで対応することは既に限界を露呈し始めている企業も多いのではいだろうか。
現在はまだ問題が顕在化していない企業においても、このまま放っておくと、本社からの応援として世界中を飛び回る「生産技術部門のエンジニア資源の“調達力の限界”」という弱点が露呈することも予想される。人海戦術のみに依存していては、中長期的にみたエンジニアの数を考えると、生産技術部門を日本に拠点を置くこと自体が劣勢を招きかねないという指摘を受けかねない。
もちろん現地の人材の教育は重要である。しかしながら、加えて自社固有の生産技術を形式知化・組織知化し、グローバルに活用できる共通の「生産技術知識データベース(多言語)」の仕組みを構築し、生産現場での問題解決活動と同期し常に進化させていく仕組み作りが、より重要な考え方となる。
さらに、同様の製品を生産する工場群を階層構造化し、海外工場で問題解決に行き詰まった場合に即応できるスマートなマザー工場を構築することが重要である。このためには、製品設計情報だけでなく、製造プロセス情報までをグローバルに管理できるPLM(製品ライフサイクル管理)、MES(製造実行システム)などの、これまで日本では本格的な導入が遅れていた領域でのシステム投資が必要となる。
2 中小製造業の場合
中小製造業の取引先(大手製造業)は、既に先進国(欧米)では現地ベンダーを含めて取り引き先を選択する傾向が強まっている。そのため、取引先の海外展開に付いていかなければ、日本国内での取引も長期的に見て頭打ちになる危険性が高い。一方、中小製造業の生産技術部門の規模は比較的脆弱で、とてもグローバル展開に十分な人的資源は保有していない企業が多いのではないだろうか。
このため中小製造業では、今後充実してくると考えられる「製造プラットフォームサービス産業」を上手に活用して、最先端のソフトウエアや組み換え可能な生産設備資源をサービスとして活用することで、比較的小さなリスクで、スピーディーで安定、かつスケーラブルな生産拠点展開を実現することは、有力な選択肢となり得るのではないか。
中小企業では、ERPなどの情報システムや生産設備のオペレーション基盤ソフトそのものを、自社でゼロから投資して構築する必要はない。むしろ、各種の製造プラットフォームサービスを組み合わせて、自社固有のノウハウに特化した投資を行うことで、競争優位性を確保し続けることに注力するのが妥当と考えられる。各種の製造プラットフォームサービスの台頭は、これら企業には、むしろ朗報であろう。
(隔週金曜日に掲載)
【著者紹介】
(2017/12/8 05:00)