[ トピックス ]
(2018/1/6 08:00)
ユーザーニーズ、顧客満足度の罠
過日、ECサイトのWEBマーケティング担当者に、インドIT企業が開発したサイト解析ツールの活用状況を伺った所、「ユーザーがページ上で注視した箇所、見過ごした(読み飛ばした)部分はどこであったかの解析結果をもとに、ページのコンテンツ構成やアイコンの表示サイズ、色調などを改善し、より多くのユーザーにおいてサイト利用時間の向上を達成できた」とのことでした。
当事例は、最新技術のきめ細かい分析による改善が顧客満足度を高めた好例に映ります。しかし、担当者は最後に「当ツールによる改善には弊害もある。結果、どのECサイトも似たり寄ったりで特徴の無いものになっている」と、他社との差別化を阻む要因になっている現状、また、ユーザーの立場からは、「類似する複数のECサイトの各利用時間が伸びてしまい、選択に時間を要する割には価格が購入の決め手になる場合が多い」という悪循環について言及していました。
良いことを行っているはずなのに、好循環とならない原因は何でしょうか?
ベストプラクティス、ベンチマークの誤謬
経営状態、製品力、マーケティング展開の評価に際して、ベストプラクティス(最良規範)、ベンチマーク(標準規範)、ロールモデル(模範)を物差に評価した改善が多くの企業で取り組まれています。
このアプローチは、効率良く、最大公約的な改善を図る上で威力を発揮しますが、もろ刃の剣として、各軌範の依拠する点や一般性、個別性等の考慮を欠いた場合、単なる模倣となり期待したほどの改善結果が得られず、試行錯誤の深みにはまります。
改善の取り組みが空回りしてしまう理由は何でしょうか?
マス・カスタマイゼーションの到来
インダストリー4.0で、いよいよ「マス・カスタマイゼーション(個別大量生産)」の実現が視野に入ってきました。
マス・カスタマイゼーションは、Andreas Kaplan氏とMichael Haenlein氏が「企業と顧客の何らかのやり取りから、製造または組み立て工程でカスタマイズされた製品を大量生産品と同程度のコストと価格で製造し、価値を生み出す戦略」と位置付けています。(※1)
このことは、個々の顧客のニーズを反映した最適な商品の開発手法、そしてその生産を可能とする新たな企業体制(内外を含む)の必要性を意味しています。
インダストリー4.0への取り組みは、結果的に、“ユーザーニーズ追求の罠”や“ベストプラクティスの誤謬”を解消する事とほぼ同義となりそうです。
マス・カスタマイゼーションにおける商品開発の展望
商品開発における「持続的(改良商品)イノベーション」と「破壊的(市場創出商品)イノベーション」について、マーケティングプロセスを軸に両者の比較表を作成してみました。
この表で一目瞭然の通り、市場創出型の商品開発では“無から有を生む”上でのコンセプト開発の重要性、そして、製品化前段階における商品化評価の困難性が挙げられ、マス・カスタマイゼーションの実現にはこの課題を克服する新たなマーケティング手法が期待されています。
現在、一部の企業では、技術シーズにおけるオープンラボの取り組み、またユーザーニーズの反映における顧客共創マーケティング等が試行されています。いずれの取り組みも従来の改良型商品開発には無かったもので、オープンな組織体制、組織間連携への転換が見られます。
新たなコンセプト開発手法への挑戦
現在、弊社では新商品のコンセプト開発において、以下の7つの要素から商品の方向性、ニーズの探索等を基としたアプローチを提唱しています。
●主観(感覚)的要素:感性、最適、便利、形状
●客観(論理)的要素:機能、安全、価格
数値化の難しい主観的要素のコンセプト化に女性マーケターを登用し、客観的要素は技術専門家が担うという混成マーケテイングチームによる開発事例も増えています。
IoTやAI等の先端技術を駆使した自動運転車やロボットを始め、インダストリー4.0による人、社会、市場の再創造を加速化させる、独創性ある商品を生み出す新しいコンセプト開発手法の確立が求められています。
※1:"Toward a parsimonious definition of traditional and electronic mass customization". Journal of product innovation management.(2006)
(『新製品情報』2016年2月号掲載)
(毎週土曜日掲載)
【著者紹介】
武道 誠芳
株式会社テンプロテクシー 代表取締役
(マネジメントコンサルタント)
所属:(株)テンプロクシー にて、Web関連サービス、マーケティングサービス、ロボットビジネス等を展開
生年:1960年8月
出身:富山県富山市八尾町
学歴:横浜市立大学商学部経済学科(1983年卒)
経歴:外資系コンピュータメーカー、システムコンサルティング会社、サイパン合弁事業への参画後、1996年11月 起業・独立
(2018/1/6 08:00)