[ オピニオン ]
(2018/1/6 09:30)
カナダの産業というと、天然資源、木材、穀物・食品、自動車関連などが思い浮かぶが、実はゲームや映像、ソフトウエア関連でも高い国際競争力を持つ。うちゲーム産業は年間37億カナダドル(約3300億円)の売上高を誇り、世界3位の規模という。とりわけ最近注目されるのが仮想現実(VR)ゲーム。ブリティッシュコロンビア州バンクーバーに本社を置くVRゲームなどの有力制作会社、アーキアクト・インタラクティブのデレク・チェン共同創業者兼社長にVRやAR(拡張現実)の将来を聞いた。
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まずVRで使われるヘッドセットについて。現状では、台湾HTCの「バイブ(Vive)」、フェイスブックが買収した米オキュラスの「リフト(Rift)」、ソニー・インタラクティブエンタテインメントの「プレイステーションVR」が人気だ。それらのほか、(日本人がシリコンバレーに設立したスタートアップの)フォーブ(FOVE)にも注目している。同社のヘッドセットは一般向けで視線追跡(アイトラッキング)機能を内蔵した初めてのものだからだ。
こうした機能を利用すれば、ユーザーの視線が当たっているエリアにオートフォーカスで焦点を合わせるとともに、映像を詳細に表示し、それ以外は粗く、といった処理ができる。テクノロジーは時間とともに性能が向上し、コストは下がっていく。視線の動きを読みつつ、それをリアルタイムでレンダリング(描画)に反映させるというのは技術的にそう難しいことではない。フォーブの技術はVRの将来に向けた重要な構成要素の一つになる。
「ニューラリンク」は実現可能
VRのヘッドセットは将来もっと小さくなり、VR/AR/MR(複合現実)それぞれの機能が一つに融合されるだろう。さらにメガネ型やコンタクトレンズ型も登場し、目に入れて映像を見られるようになる。一方でSF映画『ブレードランナー2049』に登場したようなホログラムで投射する手法は裸眼で映像を見ることができる半面、ユーザーと映像とをインタラクティブに作用させるのが難しい。
一方で、米テスラのイーロン・マスクCEOは脳関連スタートアップのニューラリンクを2016年に立ち上げた。脳にマイクロチップを埋め込み、コンピューターと直結してデジタル情報を神経系に直接作用させることを狙っている。実際、そうしたことがいずれ可能になると私も思っている。
ロボット遠隔操作も研究
VRとロボットの連携については、当社でも研究を進めている。特にヒューマノイド(人型ロボット)では関節などの自由度が増えるに従って制御が難しくなる。それに比べ、VRやARの技術を使えば、人間が離れた場所から映像を見ながらヒューマノイドを操作できるようになる。火事や災害現場など人間が立ち入ることのできない危険な場所での活動に役立つ。
VR技術を第5世代移動通信網(5G)や人工知能(AI)、ロボット、IoT(モノのインターネット)と組み合わせ、現実世界をそのままデジタル化していくとどういうことになるか。時間、規模、速度を我々がコントロールし、全く違った世界を構築できるようになる。それは、その世界で人間が神のような役割を果たせるということだ。
【略歴】ブリティッシュコロンビア大学でソフトウエアエンジニアリングを学ぶ。同大卒後、上級ソフトウエアエンジニアとしてアマゾンとSAPに勤務。13年にアーキテクト・インタラクティブを創業。自社のビジネス以外にブリティッシュコロンビア州のVR/AR産業を支援し、インキュベーション施設「The CUBE(ザ・キューブ)」の共同設立メンバーかつ取締役として、同州企業の支援にも尽力する。
(デジタル編集部・藤元正)
(2018/1/6 09:30)