[ トピックス ]
(2018/3/10 08:00)
筆者はロート製薬の人事やマーケティングに従事する中、チャンスを掴み生き生きと働く社員とそうでない社員の違いについて、ある傾向に気づき、社員のやる気を引き出し元気にするオールウェル活動を企画・展開してきました。この10有余年に渡る活動は、社員のメンタルヘルスを革新するインナーマーケティングの取組みと言えます。近年、うつ病の社員に対する会社のサポートが注目されておりますが、当事例が少しでもご参考になれば幸いです。
成功する社員とそうでない社員の違いは?―メンタルヘルス革新のきっかけ
仕事をしていれば、いつか必ずチャンスが訪れます。そのとき、「どうせ自分なんか…」と後ずさりして、チャンスを逃す同僚や後輩がいました。いくら励ましても前に進めない、最初は何故なのかわかりませんでしたが、よくよく話を聞き観察すると、彼・彼女たちの多くに共通点がありました。それは暴飲暴食を繰り返す、好きな物だけ食べる、野菜を食べないなど、食べ方の偏りでした。
チャンスを掴めてこそ、達成感を得、成功体験を積める。そういうことがなければ、せっかく入った会社で、働き甲斐を感じないまま価値を生み出すこともできず会社生活を続けることになり、社員にとっても会社にとっても大きな機会ロスになります。
この気づきと問題意識をきっかけに、ロート製薬の社員のメンタルヘルスを革新することをミッションに、オールウェル計画推進室が2004年7月に発足しました。当組織は、オールウェル(ALL WELL)というその名の通り、社員の心身ともの健康を目指した、社員と社内に健康意識を啓発、定着させることを目指し、「食」と「リラクセーション」に特化したサービスと心とからだの相談窓口としてスマートキャンプ(福利厚生サービス施設)を開設、社員がイキイキと元気に働けるようサポートしています。
革新するに当たり、産業医、調理師、施術者等、外部の専門スタッフを交えた体制を構築し、社員だからこそ(決して手を抜かない)本物のサービスを志向し、次の3つのサービスを提供しています。
1.オリジナル家庭薬膳の提供による食改善のきっかけづくり(有料)
偏った食べ方はからだだけでなくやがて心を蝕み、ネガティブ思考に陥ります。もちろん例外はありますが、多くの同僚や後輩社員たちを観察していて実感したことです。
いざというときパフォーマンスを発揮するには、普段の食事の積み重ねが大事であり、食材の働きや旬のパワーを利用するのが早道。もっと言えば、大気と体調の関係に少し関心をもち、食事や食材をちょっと意識する。それだけで食生活が変わり、気持ちも変わってきます。これを社員たちに伝えるために、ストレスなくおいしく食べることを第一義とした“ゆるい”薬膳(本格的な薬膳ではダメ)、ロートオリジナルの家庭薬膳を提供しています。(詳しくは2012年出版の『ロート製薬のスマートごはん(世界文化社)』で紹介しています。)
2.心とからだ、両面からのストレス解消(有料)
人を癒せるのは、やはり人の手です。自然派整体やアロマトリートメントなどの施術によって社員のからだをほぐすことで、心の中にたまったものも自然な形で吐露させることができます。
集まることを嫌い、上司や同僚と腹を割って話さず、それゆえにストレスの発散の仕方がわからない社員に対して、ストレスや疲れを吐き出し発散させ、心身ともに回復できるリラクゼーションルームでの施術サービスを提供しています。
施術者は、からだの治療の場としてだけでなく、心とからだ両方のリラクゼーションの場である認識を持って、志と技術力の高い施術を行っています。
3.心とからだの相談サービス(無料)
不安や悩みは人それぞれ、その解決策も一様ではありません。社員から相談があれば、専門医や社内外の適切な機関や部署へ繋ぐ一方、どんなことでも解決に向けて一緒に考え、動きます。そして、社員がこうしたサービスを安心して受けられるよう、以下の4点に留意しています。
(1) 社員のプライバシーを厳守して活動すること。スマートキャンプを訪れた人のことや館内で見聞きしたことについては一切他言無用としています。そうすることで、社員の信頼と支持を得ることができ、社員は安心して休息できます。一方で、元気のない、気になる社員については情報共有し、いざというとき社員を陰で支えます。
(2) 社員がお客様。社員がいつ来てもほっとする雰囲気づくり、ついまた寄ってみたくなる場づくりを心掛けています。それには多様性を受け入れるオープンさと、馴れ馴れしくなりすぎない「けじめ」が大事だと考え実践しています。
(3) 待ちの姿勢ではだめで、率先して声をかけよう、訪れようと、心掛けています。モチベーションを上げる、気持ちを開いてもらうには声かけが有効かつ必須です。気になる社員にはそれとなく様子を見に寄って声をかけます。
(4) ヘルスケアに関する時流や会社の方向性についてしっかりとアンテナを立てて、事業展開に生かすこと。時代は流れゆくもの、会社の要請や社員のニーズもますます多様化していきます。それを踏まえつつ社員の相談にのることが求められます。
以上のことからお解り頂けるように、オールウェルのスタッフは徹底して社員ファーストを貫きます。そしてその活動を支えているのは、社のメンタルヘルスの革新の一端を担っているという気概と、日々の地道な社員観察です。
オールウェル計画推進室ではこの社員観察を続けながら、社員を取り巻く環境や状況の変化を把握し、各事業所に合った個別の提案も多数行っています。ご存じのようにメンタルヘルスの一次予防策はひとつではなく、幾段階にも網を張り巡らせる必要があるからです。企業や業種、また、同じ企業内であっても事業所が違えば求められる対策は異なってきます。ロート製薬では、「健康産業に従事する者は心身ともに健康でなければならない」という社訓からトップの理解と本気度のもと、オールウェルが提案する様々な活動が社員の支持を得て、現在に至っています。
(「新製品情報」2017年5月号掲載)
(土曜日掲載)
【著者紹介】
中西 澄子
株式会社ウェルコインターナショナル
非常勤ヘルスケアマネージメントアドバイザー
出身:奈良県
ロート製薬のオールウェル計画推進室室長として“社員が自発的に健康活動に取り組む風土づくり”をモットーに社員向け食・リラクゼーション等のヘルスケアサービスを展開。現在、予防医学の観点を踏まえた新しい女性向けヘルスケアサービス事業を準備中。
(2018/3/10 08:00)