[ ICT ]
(2018/10/29 07:30)
米IBMはソフトウエアメーカーの米レッド・ハットの買収で合意した。IBMとしては過去最大規模の330億ドル(約3兆7000億円)の買収額でクラウド・ソフトのトップ企業の仲間入りを狙う。両社の発表資料によれば、IBMは1株当たり現金190ドルを支払う。これはレッド・ハットの26日の株価終値を63%上回る水準。
IBMは買収の結果、急成長を遂げて収益性の高いクラウド市場での競争力を強化するとともに、長く望んでいた実質売上高の伸びを実現できる可能性が出てきた。同社はクラウド関連技術の導入が遅れたことから、同分野のトップ企業であるアマゾン・ドット・コムやマイクロソフトとの差を詰める必要がある。
IBMのジニ・ロメッティ会長兼最高経営責任者(CEO)は発表資料で、「レッド・ハットの買収は大変革をもたらすものだ。クラウド市場巡る全てを変える」と説明した。
時価総額1140億ドルのIBMは、ロメッティ氏が2012年にCEOに就任して以来、売上高が約25%縮小している。その一部は資産売却によるものだが、大部分は既存のハードウエア、ソフトウエア、サービス事業の売り上げ減少が要因。創業107年の老舗企業は新興企業との競争で苦戦している。ロメッティCEOはクラウドや人工知能(AI)など先端分野にかじを切ろうとしている。
IBMの7-9月(第3四半期)決算は、先端分野のより大きな進展を予想していた投資家の期待を裏切ることとなった。クラウドの売上高は10%増の45億ドルとなったが、前四半期の20%増からは鈍化した。
シティグループ・リサーチのアナリスト、ジム・スーバ氏はレッド・ハットを買収したIBMについて、同社が主張していたほどクラウドで強い立場になかったと投資家が受け止める可能性があると指摘。「社の改革は軌道に乗っているとIBMが表明していたことを考慮すれば、投資家は今回の買収を疑問視するとわれわれは予想する」と述べた。
IBMの株価は今年に入って19%下落、この5年間では31%下げて時価総額は1140億ドルとなり、投資家のいら立ちは募っている。著名投資家ウォーレン・バフェット氏は昨年、IBMをほぼ見限った。バフェット氏率いる投資会社バークシャー・ハサウェイはIBMの持ち分を94%減らし、アップルの持ち株を増やした。
ブルームバーグ・インテリジェンスのアナリスト、アヌラグ・ラナ氏は、レッド・ハット買収によりIBMは「プライベートクラウドとハイブリッドクラウドの双方で信頼できる企業になる」と指摘。「後ろ向きではなく前を向いた資産を得られる」と説明した。
オープンソースの基本ソフト(OS)「リナックス」を使ったソフトウエアやサービスを提供するレッド・ハットは大口顧客からの受注が相次いでおり、今年の売上高は初めて30億ドルを上回る見通し。JMPセキュリティーズのアナリスト、グレッグ・マクダウエル氏によると、7-9月(第3四半期)にレッド・ハットは500万ドル超の受注が過去最高の11件となり、100万ドル超の受注も73件に上った。
しかし7-9月期の売上高全体と10-12月(第4四半期)売上高見通しが共にアナリスト予想を下回ったため、レッド・ハットは競合他社から契約を奪われており、成長が鈍化しているのではないかとの懸念が強まっていた。レッド・ハットは7-9月期決算時には、成長鈍化は「底を打った」とみていると説明していた。ブルームバーグ集計データによると、同社の株価は26日までの半年間で28%下げている。
ロメッティCEOは、IBMは増配を続ける予定であり、レッド・ハット買収後、人員削減を行う計画はないと述べた。(ブルームバーグ)
(2018/10/29 07:30)