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【電子版・連載】出張中に遭遇した小さな事件簿 第24話「運が悪いとき」

(2018/11/4 07:00)

  • さかい三十郎。彼は重工業メーカーで造船・プラント・工作機械事業に携わって40年の経歴を持つ出張多きサラリーマンである。彼はサムソナイト鞄(かばん)とバインデックス手帳を愛用している。ちなみにサムソナイト鞄は時に、新幹線の車内混雑時にはいすに替わる(イラスト:小島サエキチ)

 彼の名は「さかい三十郎」。正義感にあふれた庶民派である。そんな彼が出張時に出会ったノンフィクションのハプニングを「小さな事件簿」としてつづったのが本連載である。

 「本当にそんなことが新幹線内で起こるの?信じられないなぁ…」との思いで読まれる方も多いかもしれないが、すべてノンフィクション(事実)なのである。彼の大好きな「映画の話」もちりばめてあるので、思い浮かべていただければ幸いである。

 それでは車内で遭遇した事件簿の数々をご紹介させていただく。

* *

 出張時は、“運の良いときもあれば悪いときも”ある。三十郎が経験した新幹線のアクシデントでは次のようなことが。「座席予約したときに限り乗り遅れる」、「停電・大雨で停車・遅延」、「切符がない」、「かばんの鍵がロックして開かない」、「下痢気味でトイレの中で下車駅を通過」、「体調不良で駅から病院へ直行」などなど。

 こんなこともあった。東京から横浜まで行く用件があったときのこと。通常路線では間に合わず新幹線の利用を思い立ち“ひかり号”に飛び乗ったものの、新横浜駅を通過し静岡駅まで行ってしまった(当時のひかり号は新横浜駅には停車しなかった)。

 「運が悪い」の一言で済まされないことも。

 1996年の夏、広島工場で新商品披露の展示会準備をしていた三十郎はTSC(テクニカルサービスセンター)の仲間と岩国・金帯橋に出向いた。そこで見つけたのは小さな白蛇の生息館。運が付くことを祈るも、三十郎は“白蛇のたたり三代まで”の宿命を背負っている、それは……。

 生家(柳川市)には家の守り神(家主)として白蛇が住んでいた。ある夏の日、祖父が何かに取り付かれたように、白蛇を殺めてしまった。この様子を見ていたのは父と三十郎の2人。祖父はその年の秋に急死し、父は翌年の夏に続いた。祖母・母・子供3人を残して足早に天国へ旅立ってしまったのだ(以降の苦労は今になれば良き思い出である)。これが“白蛇のたたり三代まで”と言われている

 残るは三十郎一人。時効であることを切に望みたいが2013年7月、突然体調に異常をきたした。

 三十郎は手相を信じない、いや信じることはなかった。このとき、出張先の広島で倒れるまでは。

 その前年の2012年末、新宿で飲食して良い気分になったとき“手相見”と目が合った。料金2,000円を確認し手を差し出した。彼女は大きなルーペで手のひらを覗き始めた。三十郎の手は右が過去、左が未来を示すとのこと。

  • (イラスト:小島サエキチ)

 この手相見は三十郎が幼いときに経験した2度の事故を言い当て、近い将来の病気を予言した(右の生命線には断線部が2カ所、さらに下部には横切る線があり、これから一瞥できるとの由)。

 2013年5月の新幹線乗車時、何気なく手のひらを見つめていると、左手の生命線が断線部から中央側に移動し始めた。思わず心臓を叩き呼吸を整えた。「これは何てことだ」。不吉な予感を感じた。

 それから約2カ月後の7月30日、体調が急変し、出張滞在中の広島駅近くのホテルから病院へ救急車で搬送された。

 以降2週間の入院治療と2週間の自宅リハビリで社会復帰を果たしたものの、今も不安を隠せないでいる。手相見によると三十郎の余命は5~10年とのことだった。好きなことを先にやらなければ……。

 映画「誰が為に鐘は鳴る(1943年サム・ウッド監督)」の中に次のようなシーンがある。スペイン戦争で右翼フランコ軍と戦う大学教授(ゲイリー・クーパー)と市長の娘(イングリッド・バーグマン)の恋も描かれているが、最期の戦闘を前にクーパーは仲間に手相を見てもらう。何も応えない相手にクーパーは焦る。案の定、彼は馬で疾走しながら銃弾に倒れ死す。欧米諸国でも手相が信じられていることを確信したシーンであった。

 「これで一巻の終わり」の事件も何度か。三十郎が若い頃、人生の中で出会った出来事だ。でも本当は運が良いことなのかもしれない。

① 佐賀県嬉野温泉での川遊び事件(4歳)

 町内会バス旅行でのこと。年長者たちが川に飛び込み、三十郎も続くが深くて足が届かない。流れも速く溺れてしまった。次第に頭の中が白くなりかけた(記憶がなくなりかけた)ときにつかんだのは大人の足。つかまれた方は驚かれただろうが、無事助かった。

② 矢部川横断水泳事件(10歳)

 友人たちと川遊びに出向き、半ば泳ぎ切った頃、足がつり泳げなくなった。人生これまでと諦め、水中に没したら足もとに大きな石が。そこに足をつき、息を整え無事対岸へ。

③ 雷雨で着陸したマドリッド空港事件(22歳)

 イタリア・ダヴィンチ空港を発ち、雲の上で快適な空の旅を楽しんでいた。地中海を半ば過ぎてスペイン近くとなり、降下し始めたときに突っ込んだのが雷雲の中。乗客全員が悲鳴を上げ、祈りを捧げる者も。揺れる機体、雷雨の光の中、スペイン・マドリッド空港に無事到着。拍手喝采・抱き合い生還を喜んだ。

④ クレーン倒壊事件(29歳)

 サウジアラビアでメタノールプロジェクトに参加し、現地建設工事に従事していたときのこと。ドライバーがアウトリガー(車体固定装置)を固定しないでブーム(腕)を伸ばしたため、クレーンが横転。三十郎の目前30cmにブーム先端が落ちてきた。九死に一生を得たとはこのことか……。足がすくみ動けなかったことが今も夢に出てくる。

(雑誌「型技術」三十郎・旅日記から電子版向けに編集)

(2018/11/4 07:00)

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