[ オピニオン ]
(2018/11/29 05:00)
11月も下旬ともなると、朝夕はさすがにひんやりしてくる。暖かい鍋料理が食べたくなる季節だ。
そんな時に山梨県北杜市に工房を構える土鍋作家の大蝶恵美子さんと話をする機会を得た。彼女の土鍋は蓋がとんがり帽子の形で蒸気抜きの穴がない。湯気が蓋の中で冷まされ鍋に戻るので無水鍋としても使える。北アフリカで使われているタジン鍋にヒントを得た。
鍋だけでなく大蝶さん自身もユニークだ。静岡大学理学部を卒業後、塗料会社の研究室に勤めたが、半年で辞め1年ほど欧州を放浪、帰国後、アルバイトで近所の子供たちを教え始めたら、100人ほど集まって学習塾になった。
30代後半にはイタリアに渡り、現代陶芸の巨匠といわれるカルロ・ザウリの知遇を得て、彼が学長の工芸学校に入った。「ザウリは先生というより遊び仲間だった。日本に戻ってから『日本で展示会をやるから来い』との手紙をもらって有名人だったのだとびっくりした」という。
産業界では、ロボットはもとよりIoT(モノのインターネット)や人工知能(AI)など最新技術の導入が盛んだ。こうした中で土を混ぜ合わせ、手でこねて鍋を作る話はモノづくりの原点という気がして楽しかった。
(2018/11/29 05:00)