(2020/2/11 05:00)
レジリエンス社会実現へ イノベーション創出後押し
世界屈指の災害大国でもある日本。防災・減災に向け、地震をはじめ自然災害への日頃の備え、さらに災害発生後の早急かつ的確な対応がより重要となっています。2015年に日刊工業新聞社が事務局となって発足した日本防災産業会議は官民連携、企業間連携による防災・減災のための仕組みづくりを進め、それらが現在開発中の「防災情報共有システム」「防災営業支援ツール」などに結実してきています。1月17日に開かれた日本防災産業会議の全体会合でも、相澤益男会長が官民連携、企業連携を通じて防災・減災レジリエンス社会の実現に貢献していく姿勢を強調しました。
「防災マップ」の成果、次につなげる
日本防災産業会議会長・相澤益男氏
今年の1月17日で阪神・淡路大震災から25年目という節目の日を迎えました。阪神・淡路大震災ではさまざまな教訓が残りましたが、一つ重要だったのは、大震災の起こった1995年がボランティア元年になったということです。このボランティア活動の盛り上がりが、その後の東日本大震災の際に大きな展開を示したのはご案内の通りです。
また、2011年の東日本大震災は、未曾有の地震と津波、それに原発事故という複合型の災害となり、かつてない甚大な被害をもたらしました。こうした大規模な自然災害に対して世界も大きな関心を示し、国連は15年に「仙台防災枠組2015-2030」を採択したわけです。実はこの年に国連は「SDGs」という形で、持続可能な開発目標を設定しています。それと同時に、気候変動に対する国際協定である「パリ協定」が締結されました。15年というのは人類社会の持続可能性を進めていくうえできわめて重要な年であったわけです。
日本防災産業会議は仙台防災枠組を受け15年に設立され、官民連携を通じて防災産業を育成し、わが国全体の防災力を向上する活動を開始しました。その直後の16年4月に起こったのが熊本地震です。この熊本震災の際には、日本防災産業会議の会員からも各社がどういった被害を受け、災害対応を行ったかが具体的に報告されました。同時に、防災科学技術研究所が現地の熊本県の災害対策本部に入り、地図上に災害情報をマッピングするという画期的な活動を実施しました。このように、ここまではどちらかといえば、地震が自然災害の典型的な問題という形で取り組まれてきたわけです。
その後も地震災害は依然として収まることはありませんが、今度は台風、それから豪雨といった水災害が激甚化し、頻発するようになってきました。加えて広域化してきているのも特徴です。特に昨年、記録的な巨大台風が千葉県を中心とする関東、長野県、東北などに非常に大きな被害をもたらしました。このような激甚災害に対しての災害情報基盤、社会インフラ、復旧支援の総合的な防災対策が喫緊の課題になってきたわけです。
ただ、残念ながら自然災害を完全に防ぐというのは無理なことでもあります。減災・レジリエンスの重要性を改めて認識するとともに、防災対策をさらに進化させる必要性に迫られてきました。
このような流れの中で、日本防災産業会議は、「情報分科会」「モノ・技術分科会」を活動基盤として、参加企業を中心に災害時にどういった取り組みができるかを俯瞰(ふかん)し、「防災マップ」を作成しました。災害種別ごとに「発災前」「発災時」「復旧・復興」というような形で3段階に分け、それぞれのソリューションをマッピングしたものです。日本防災産業会議のウェブサイトのトップには、「イノベーション創出による防災・減災・レジリエンス社会の実現」というビジョンとともに、「8項目のチャレンジ」をロゴで表示しました。日本防災産業会議の活動をご理解いただけると思います。
さらに、こうした「防災マップ」に基づき、防災・減災あるいは災害対応などの活動を支援するためのシステムづくりにも取り組んでいます。それが「防災営業支援ツール」でして、現在プロトタイプまで開発が進んでまいりました。このような形で、日本防災産業会議の活動が急展開してきております。
昨年の台風、豪雨では、今までの地震被害と違い、日本防災産業会議の参加メンバーでも被害を受けた真っただ中の企業が多数あり、熊本地震の際のアンケートとかなり違った状況となっています。さらに今回、各社からご報告いただいた被害状況、災害対応から新たな課題も見えてきました。そうした課題を会員企業から提示いただき、今後の日本防災産業会議の活動をさらに強化していきたいと思っています。
防災情報共有システム実稼働へ 地震・豪雨データ、自社拠点と重ね地図上に
事務所や工場、工事現場といった企業の拠点、さらには顧客・協力会社などが、災害時にどういったリスクに見舞われているのか―。地図上にマッピングした自社拠点と重ね合わせ、防災担当者に直感的にわかりやすい形でこうした災害情報をリアルタイム表示してくれるのが「ArcGIS Online防災情報共有システム」。実稼働に向け、着々と開発が進められている。
この情報共有システムは、国立研究開発法人防災科学技術研究所(防災科研)と日本防災産業会議との情報連携協定によって実現したプロジェクト。日本防災産業会議の会員が、防災科研の「クライシスレスポンスサイト」(CRS)をはじめ、リアルタイム災害情報にアクセスできる仕組みとなっている。一方で、相互の連携協定に基づき、会員企業側では機密情報には当たらないような、拠点周辺の災害情報などを集めて防災科研側に返す仕組みも今後整える計画となっている。
利用の手順としては、会員が自分のIDでサイトに入ると、CRSなどから提供され、今まさに起こっている地震、豪雨、土砂災害の危険度、河川の氾濫など災害のコンテンツが見られるようになる。
さらに地震関連では被害推定情報についても実装を進めている。地震が発生すると、その震度分布と会員があらかじめインプットしておいた拠点データをもとに、拠点被害推定プログラムが自動的に起動、会員サイトの地図上に各社の自社拠点の被害推定情報をプロットする仕組みとなっている。地震発生時の初動対応のほか、実際の震度分布図のレイヤーを重ねることで各拠点での災害対策や事業継続計画(BCP)に活用したりもできる。
開発費用は日本防災産業会議が負担しており、会員企業は1ID当たり年間10万円を切る料金でこうした防災情報共有システムを利用できるようになる。
防災営業支援ツールで試作版 関連製品・ソリューションなど仮登録開始
日本防災産業会議が開発を進める「防災営業支援ツール」のプロトタイプがこのほど完成し、その実運用に向けて一部の会員企業が持つ防災関連製品・ソリューションなどの商材の仮登録作業を始めた。今後とも機能や使い勝手を向上させる追加開発に取り組みつつ、商材を登録する会員を増やすことで、防災力の向上と防災産業の後押しにつなげる方針だ。
このツールはデータベース(DB)と連動するクラウドシステム。操作は対象となる場所の住所を入力するだけでよく、そもそもその地域には、どれくらいの危険度(高・中・低)で、どういった自然災害リスク(地震・津波・水害・土砂災害)があるか、さらに必要な防災対策や発災後の対応、そのためのソリューションまで提示してくれる。防災について知見のあまりない人に対して自然災害リスクや対応策をわかりやすく説明できる、いわば「見える化」システムとなっている。
国内では自然災害が相次ぐ一方、BCPを策定していない中小企業が多数を占め、大きな課題となっている。こうしたことから防災営業支援ツールは当初、中小企業の防災担当者を説明対象と想定し運用していく予定だが、ゆくゆくは都道府県や市町村のニーズも取り入れ、地方自治体向けの営業支援ツールの開発も検討する。併せて、日本防災産業会議では同ツールに組み込む防災関連商材リストの充実を図るため、通常の正会員とは別の賛助会員制度を設け、防災関連商材を持つ中小企業などに入会を呼び掛けるほか、他の防災関連産業団体との連携も進めていく。
(2020/2/11 05:00)