(2021/8/19 05:00)
日本防災産業会議(事務局=日刊工業新聞社)は第6回通常総会を開き、防災に向けたイノベーションにデジタル変革(DX)を活用する、「防災DX」を推進していくことを決めた。会員企業各社が持つ技術を持ち寄るほか、提携する防災科学技術研究所の協力を仰いで、会員ほかが災害情報などを共有するプラットフォームの構築を目指すなど、多様化、深刻化する災害に、DXを前面に押し出して対応する。
第6回通常総会 オンライン活用、情報発信
日本防災産業会議の第6回通常総会は、2020年度(20年4月―21年3月)の事業報告・決算を承認し、21年度(21年4月―22年3月)の事業計画・予算を審議した。内閣府防災担当からの防災行政の最新情報に関するレクチャーのほか、会員企業からは、構造計画研究所の荒木秀朗専務執行役による、防災におけるDXについての講演も行った。
20年度はコロナ禍の影響を受け、会員各社の技術・サービスなどを一般に発信するシンポジウムなどは開催を控えた。一方で内閣府防災担当と会員企業との情報交換の場である防災イノベーション官民意見交換会は、東京での来場とオンライン参加とのハイブリッドで開催し、遠隔地からの参加など、地理的制約を超えた新しい形態を模索した。
21年度も交流会などの開催については、引き続きハイブリッド開催を活用していく方針。会員企業から情報発信するシンポジウムもオンラインを活用して開催し、会員拡大などに結びつける。12月1―3日に東京ビッグサイトで開く防災産業展2021(日刊工業新聞社主催)も、リアル開催による発信の場として活用する。同展はオンラインでも開催する。
DXを活用した、「リアルタイム地震被害推定情報」についても、会員の参画を促進する。同サービスに加入する会員各社に、登録した全国の拠点について、地震発生時の建物被害推定情報を配信するもの。災害情報共有訓練とも連動して会員の連携を促進する。
会員各社が持つ防災関連の商材やソリューションを登録し、一般利用者がそれらを使用する地点での災害危険性とすり合わせて閲覧できる「防災営業支援ツール」についても、本格運用を行う。
来月1日、災害情報共有訓練 一般企業の参加募る
日本防災産業会議は、民間企業による災害情報共有プラットフォームの構築を目指して、災害情報共有訓練を9月1日に実施する。防災産業会議と情報連携協定を結んでいる防災科研から提供される災害情報に対し、参加企業が全国の拠点の建物被害情報などを簡易なフォームを使って報告し、これを集約して参加者間で共有する。防災産業会議だけでなく、防災に関心を持つ一般企業からの参加を募る。
9月1日の「防災の日」に合わせて訓練を実施するもので、同日のある時刻に地震が発生したとの想定で、防災産業会議から仮の災害情報を参加者に配信する。参加者は自社の拠点の建物被害の状況や、電気・水道といったインフラの状況などを入力する。全国にある複数拠点からの入力も可能で、より広範に災害時の状況を防災会議事務局側に伝えてもらう。
訓練では南海トラフ地震を想定した具体的なシナリオを事務局側で作成し、参加者に配信する。防災科研が災害状況などのコンテンツを提供している「防災クロスビュー」を活用して、シナリオ作成でも協力を仰ぐ。入力した情報は参加者で共有し、全国にある参加者の拠点建物の被害状況、インフラの状況などが一目でわかるような画面を構築する。今後は、地震だけでなく豪雨災害などでも同様の訓練を実施していく計画。
多様な業種の民間企業30社あまりで構成する同会議会員を中心とする参加者が、災害発生時に被害情報などを共有し、サプライチェーンをにらんだ災害対応や地域への貢献についても連携する。参加問い合わせは日本防災産業会議へ。
あいさつ
災害対策基本法等の一部改正
内閣府 防災担当参事官(防災計画担当) 小玉典彦氏
近年大規模災害では、内閣府職員と防災科学技術研究所職員のチームが共同し、現地などで作業に取り組んでいる。熱海の災害でも新たに設けた特定災害対策本部など、政府全体で一体となる体制を確保した。
災害対策基本法等の一部を改正して5月に施行した。自然災害が頻発している中で、災害時における円滑かつ迅速な避難の確保と、災害対策の実施体制の強化に重点を置いた。逃げ遅れとならないよう避難勧告、避難指示を一本化し、一発で避難指示が出る仕組みにした。また、災害が発生する恐れがある段階から災害対策本部を設置できるようにしている。
防災・減災、国土強靭化新時代
内閣府 防災担当参事官(防災デジタル・物資支援担当) 山田剛士氏
東日本大震災から10年、熊本地震から5年といったタイミングで「デジタル・防災技術」「事前防災・複合防災」「防災教育・周知啓発」といったワーキンググループなどに、「防災・減災、国土強靱(きょうじん)化新時代」とした提言を、まとめていただいた。
デジタルを極限まで活用した先手を打つ災害対応では、未来に向けやるべきことや、近い将来の社会実装について提言された。これを受け、官民で災害対応する防災デジタルプラットフォームを整備していく。このほか、国土強靱化についての脆弱(ぜいじゃく)性評価の実施や、感染症との複合災害への対策も進めていく。
多様な企業のプラットフォーム
日本防災産業会議 会長 相澤益男氏
日本防災産業会議の設立目的は、幅広い官民連携による防災産業の強化と、それによって国の防災・減災力の向上を図ること。連携については具体的には意見交換会などを開催してきたが、このたび「防災イノベーション官民連携意見交換会」と名付け、定期的な開催を始めた。さらに強力に進めていきたい。
次にポイントとなるのは「複合災害対応」ということだ。緊急事態宣言が出されるなどのコロナ禍、土石流災害や線状降水帯の大雨など、複合災害が常態化しているのが現状だ。本格的な複合災害対応は緊急課題だが、この1年で会員企業をはじめ、革新的な試みが次々と現れている。
災害リスクは非常に広域化、多様化している。産業分野、企業といった壁を越えて、複合災害に対応することが必要だ。当会議は多様な企業が参加している。これを強みに、複合災害対応のプラットフォームとなるべく活動する。例として、防災科研との連携で進めている災害情報共有訓練などで、プラットフォームとしての機能を発揮する。
そして防災DXも重要だ。会員企業から、新たな局面に挑戦する取り組みが出てきた。DXは、今回のパンデミックによって引き起こされた、もう一つの重要な側面だ。デジタル化が目的ではなく、DXを使って社会の変革をもたらす。防災に限らず大きな波及効果を持つDXにつながるよう、力を結集する。
記念講演
2011年から10年 防災分野におけるデジタル環境の変化
構造計画研究所 専務執行役 管理本部長 荒木秀朗氏
2011年の東日本大震災から10年経過した。防災分野において「デジタル」の環境、仕組みがどう変わってきただろうか。
この10年は、災害に対する注目度が非常に高かった。震度7クラスの地震は熊本地震(16年)、北海道胆振東部地震(18年)と2度あり、火山の噴火、豪雨災害、台風による被害にも立て続けに見舞われた。
一方、デジタル環境はどう変化したか。計算機が非常に進化し、通信環境が著しく向上し、センサーの性能が進化した。ビッグデータ、機械学習、深層学習といったものもどんどん浸透してきた。各社にサーバーを置くことは少なくなりクラウド化が進んだ。その結果、SaaS(サービスとしてのソフトウエア)、IoT(モノのインターネット)、AI(人工知能)の活用も広がっている。そして、デジタルの進化は、防災に確実に使われるようになってきた。
例えば、通信が途絶した環境で情報を伝達するには、スマートフォンを使ったアドホック通信や、準天頂衛星といった手段がある。リモートで避難所の入退室や施錠を管理するには、電子錠を用いて、クラウドで情報共有する。
「密」を把握するには、高性能のカメラを使って画像分析し、それをクラウドで見て人数を把握する。被災状況は、画像と点群を使って計測・記録・保存し、3Dスキャナーなどを用いて、やはりクラウドで共有する。
河川増水の予測にはさまざまな取り組み例があるが、一例としては水位データから数学モデルで6時間先を予測して、共有する。降雨・浸水状況をリアルタイムに反映して想定外の水害に備える。
BCP(事業継続計画)の観点からは、例えば地震被害をシミュレーションベースで推定し、建物などの補強効果の検証や、被害把握も行う。
民間の例を紹介したが、国も積極的な取り組みを進めている。会員各社も、新たな挑戦を活発に行っている。当会議が目指すのは、官と民のより強力な連携だ。データの共有なども含めて、官民がうまくつながっていけば、より高度な防災の仕組みが実現できると考えている。
(2021/8/19 05:00)