(2023/12/25 13:00)
今年で創業から110年目を迎えたメトロ電気工業。同時に、重要な製造拠点である島根工場(島根県雲南市)も開設から10年目を迎えた。長らく光源としてのランプを扱い、部品メーカーとして人々の暮らしを支えてきた同社だが、現在は熱源としてランプを扱うエンジニアリング企業を目指す。島根工場は、その新たな挑戦を10年間支えてきた。
白熱電球の製造から始まった同社は、2005年に光源としてのランプで培った技術力をもとに赤外線カーボンランプヒーター「オレンジヒート」を開発した。活用方法はオーブントースターや暖房機器などの民生用途から金型加熱器といった産業用途まで幅広い。
オレンジヒートの開発をきっかけに、電球やヒーター管という大量生産の部品販売に事業をとどめず、オレンジヒートを用いた加熱機械器具の設計という新たな挑戦に乗り出す。
産業用加熱器に使用するヒーター管は、特殊品かつ小ロットであるため、製造は愛知県安城市の本社工場が一手に担っていた。しかし、暖房用の季節商品であるこたつや家電向けのヒーター管は、計画的に生産し倉庫に貯蔵することで需要の波に対応する。そのため、本社工場のスペースは倉庫機能が多くを占め、ヒーター管製造のための生産ラインの拡張は難しかった。「注文が多いときは技術部門が残業して対応していた」と川合誠治社長は振り返る。
島根県へ進出
新事業が軌道に乗り始め、いよいよ本社工場だけでは生産が追いつかなくなった2013年。海外ではなく、顧客に近い国内での増産のために新設したのが島根工場だ。本社工場のある愛知県と離れた地域への進出は、事業継続計画(BCP)対策も兼ねる。新たなビジネスモデルの根幹を担う重要な工場の誕生に、川合社長は「おかげで産業用加熱器の受注が増えても、心配せずに対応できるようになった」と笑う。
迫られる社内変革
新たな挑戦の中、従来通りでは対応できないことも出てきた。大きな課題のひとつが、品質保証だ。家電の電球は切れたら替えるだけだが、顧客の生産ラインに組み込まれた産業用加熱器のヒーターは、切れたら顧客の生産が止まってしまうため「寿命の前に定期的に交換をしてもらうことが重要となる」(川合社長)。
しかし、産業用加熱器は使用環境が設備の仕様によりさまざまで、気温が常温の場合もあれば、500度Cにも達する過酷な場合もある。それぞれの条件での寿命を知る必要があるため、「今までと違う視点での寿命試験」(同)への対応を急いでいる。
また、営業体制も変革した。エンジニアリング企業となるべく、各所に配していた営業部隊は技術開発と生産を担う本社工場へ集約。生産現場を経験して製品を深く理解したセールスエンジニアの育成に注力している。顧客ニーズを拾って提案する『エンジニアリング企業』のビジネスモデルへ変革する準備を整える。
『池クジラ』を目指す
110年目の変革で目指すところは、ニッチな業界で大きく育つ「池クジラ」だ。同社はオレンジヒートを武器に、熱源としてのヒーター管を活用した加熱機械器具という新たな市場を開拓した。「社内変革による下準備は一段落」(同)した今、今後は島根工場による安定生産が市場の深耕を支える。
(2023/12/25 13:00)