[ ICT ]
(2016/4/21 05:00)
・投資家グループがソフトバンクとスプリントの取締役会に書簡
・ソフトバンクはアローラ氏には不適切行為なく、新情報もないと説明
【ブルームバーグ】ソフトバンクグループの株式を保有する投資家グループが、同社ナンバー2のニケシュ・アローラ氏について内部調査を行うよう同社取締役会に求めていることが 分かった。同グループは11ページに上る書簡で、孫正義社長が自らの最有力後継者候補に挙げているアローラ氏の副社長としての実績や適性に疑問を呈し、同氏の解任を検討するよう要求している。
要請はソフトバンク取締役会宛ての1月20日付の書簡で行われた。未公開の同書簡は、米法律事務所ボーイズ・シラー・アンド・フレクスナーから送られたもので、同事務所のパートナーであるマシュー・シュワーツ氏が署名している。投資家グループを構成する株主の名前や保有株数は明らかにしていない。
同書簡はアローラ氏について、利益相反の有無や過去に不適切な行為に関与した可能性、経営判断のまずさなどを挙げている。これとは別に、ソフトバンク傘下の米スプリントの取締役会に宛てた投資家一人からの書簡も、同様な理由でアローラ氏の取締役解任を求めている。
投資家グループは両社の取締役会に対し、独立した企業による「内部調査」を実施するよう要求。「ソフトバンクとスプリントの取締役会がアローラ氏を執行役と取締役の職から解任する上で説得力のある根拠が独立調査によって築かれるとわれわれは考える」と述べた。
ソフトバンクはアローラ氏による不適切行為の疑いを否定。書簡は「身元不明の株主」による「根拠のない主張だ」とした。アローラ氏の投資決定が利益相反を伴う可能性については入念に調べており、同氏の経営能力を信頼していると説明。取締役会が書簡の内容を精査する過程にあるとした。孫社長は取材に対して文書で、「私はアローラ氏に全幅の信頼を置いており、1000%信用している。彼が将来もソフトバンクのために素晴らしいことを続けると承知している」とコメントした。スプリントはコメントできないとしている。
アローラ氏は、利益相反の可能性を伴う情報については、いかなるものも会社と共有するようにしてきたと説明。「私の実績が物語っていると思う。ソフトバンクでの18カ月間、私は常に会社を優先するよう努力してきた。これらの書簡コメントで事実に基づいているものは何一つないと考える」と述べた。
アローラ氏(48)は2014年にソフトバンクに移籍。その前は米グーグルに10年間勤務し、営業担当のトップや最高ビジネス責任者などを務めた。
アローラ氏はソフトバンクに多額の個人資金を投じており、昨年8月には同社株600億円相当を購入する意向を示した。これは日本企業の幹部による自社株取得では少なくとも過去12年間で最高。
ジェフリーズ・グループのアナリスト、アツール・ゴーヤル氏は、「アローラ氏のパフォーマンスをやり玉に挙げることは全く恣意(しい)的に見える。私は孫社長の判断を信頼したいと思う。アローラ氏は既に自社株取得によって自身のコミットメントを示している」と述べた。
ソフトバンクが5000億円を上限に自社株買いを行うと発表した今年2月15日以降、同社の株価は30%余り上昇している。昨年は出資先のスプリントとアリババ・グループ・ホールディングの問題が重しとなった。アローラ氏の入社以来、株価は約20%下落している。
報道を受け、21日のソフトバンク株は一時、前日比5%安の5702円まで下落した。その後、再び値を戻し、午後2時21分現在は同1%高の6064円で取引されている。
利益相反
ボーイズ・シラーのシュワーツ氏は、ソフトバンクから書簡への返答はないと説明。「われわれは次のステップを積極的に検討している」と述べた。書簡によると、ソフトバンクとスプリントが60日以内に調査を発表しない場合、投資家グループは法的措置や当局への情報提供など、その他の是正手段を目指す意向だという。この60日期間は先月終了している。
書簡では懸念として、アローラ氏がソフトバンクよりも個人の利益を優先させる利益相反の可能性と、ソフトバンクのために行った投資の結果が振るわないこと、十分な開示が行われずに過剰な報酬を得ていることの3点を主張している。
このうち利益相反の疑いは、アローラ氏がグーグル在籍時の2007年からプライベートエクイティ(PE、未公開株)投資会社シルバーレイクのシニアアドバイザーを務めていることに主に関連する。書簡によれば、同氏はソフトバンクのために行うべきハイテク企業投資と同様の取引をシルバーレイクが行うのを支援することで報酬を受けている。「こうした二重の役割はソフトバンクの利益を損なう形でシルバーレイクを利する恐れがある」とシュワーツ氏は書簡で指摘した。
これについてソフトバンクは、アローラ氏によるシルバーレイクへの関与は認識しているとした上で、利益相反がないように十分に調べているとした。こうした投資が問題を生じさせる恐れがある場合、孫社長を含む経営トップが検証を行うとしている。シルバーレイクのアドバイザーとしてのアローラ氏の役割に問題はなく、ソフトバンクはそれによる恩恵を受けていると説明した。シルバーレイクにコメントを求めたが、現時点で返答はない。
アローラ氏は、ソフトバンク移籍後の自身のシルバーレイクとの関与は最小限のものにとどまっていると説明。同社から得ている情報は、具体的な投資案件候補について知る必要があるものに限られているとした。昨年1年間でシルバーレイクとの契約による職務に費やした時間は10-20時間程度だったという。同氏はさらに、現在の契約終了時にシルバーレイクのアドバイザーの職を降りる可能性があると述べた。
投資実績
書簡はアローラ氏の投資実績について、適切なデューデリジェンス(資産査定)を怠ったことで「精彩を欠く」結果となっていると指摘。具体的には、ソフトバンクによる米動画配信サービスのドラマフィーバーへの投資と、インドの不動産ポータル、ハウジング・ドット・コムへの投資を挙げている。いずれもソフトバンクが投資した直後に問題が生じた。
これについてソフトバンクは、新興企業を支援する事業は本来、高リスクであり失敗することもあると指摘。問題が生じた2件だけを取り上げても、全体の成功率は分からないと述べ、アローラ氏の戦略には満足しているとした。同社スポークスマンは「18カ月で投資実績を評価するのは完全に時期尚早だ」と述べた。
ソフトバンクは昨年6月、前年度の7カ月間の勤務の報酬としてアローラ氏に166億円を 支払ったことを明らかにした。当時としては日本で過去最高の報酬パッケージだった。書簡は、同氏のソフトバンク入社による恩恵がまだ何も見られない中でこうした額の報酬が支払われたことは「憂慮すべきであり、容認できない」とした。これについてソフトバンクは、アローラ氏の能力と経験を考慮すれば妥当な金額だと反論。支払われた報酬の一部は契約時のボーナスだったと説明した。
原題:SoftBank Investors Call for Internal Probe of President Arora(抜粋)
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