[ 機械 ]

新興国市場を深耕するマシニングセンター

(2016/10/14 12:00)

 2016年上半期の実績をみると、マシニングセンター(MC)を含む工作機械の動向は低調に推移した。だが、中長期的に俯瞰(ふかん)すると、別の景色をみることができる。新興国における生産設備市場の拡大と、次第に高品質・高効率を求めるユーザーニーズの高まりは、日本製産業機械にさらなる商機をもたらすことが予想される。これに応えるには、機械ユーザーの技術レベルや原価低減ニーズを十分に把握した上で、日本企業の強みであるカスタマイズ能力を生かした技術提案に注力する必要がある。

◇日本政策金融公庫総合研究所 主席研究員 海上 泰生

中長期的には堅調な拡大傾向

 16年上半期の実績では、MCを含む工作機械の動向は低調に推移した。14年には前年比34%増、15年には同6%増と伸長していた工作機械全体の生産実績は、16年上半期で一転、前年同期比21%減と縮小し、MCに限れば、さらに低下幅が大きい同37%減となった。 

 業界の先行きだけでなく、設備投資全般の先行指標として重視されている受注動向をみても、4月単月で32カ月ぶりに好不調の目安とされる1000億円を割り込むなど、上半期の前年同期比は22%減と低調な数字となった。内訳としては、金属製品工業・自動車部品工業からの受注や外需の大幅な落ち込みが目立つ。中国経済の減速や円高・輸出減少などがその背景にある。中小企業庁の「ものづくり補助金」の16年度の採択が6月だったこともあり、それまで手控えられていた発注が7‐8月に盛り返すと予想されてはいるが、過度の期待はできないだろう。

 このように足元の短期的動向は低調にみえるが、中長期的には別の景色をみることができる。多くの日本製品が海外勢相手に苦戦する中、工作機械を含む資本財では、依然、日本が強い競争力を維持していることを忘れてはならない。単なる価格競争だけでなく性能・品質・信頼性が問われる製品分野であり、新興国の経済成長に伴う生産設備市場の拡大は、引き続き大きな商機をもたらしている。

 例えば、図1で中期的な出荷動向をみると、いわゆる消費財全般が国内市場の縮小や海外勢との価格競争の中で低調に推移しているのに比べて、産業機械などは世界金融危機から回復して以降、総じて好調に推移している。日本の機械工業の競争力は、内外の市場において今だ健在なことを示すものだ。

 確かに国内市場がひたすら右肩上がりで伸び続けるとは考えにくいが、一方で成長著しい新興国については、引き続き設備投資需要が拡大していくことが見込まれる。

  • 図1:消費材に比べて堅調に推移している産業機械などの出荷(国内外向け)

 実際に日本メーカーによるMCの輸出先国・地域トップ10をみると、15年現在で中国が全体の3割強を占め、以下、米国、香港、インド、韓国、タイとアジア勢が多く名を連ねている(図2)。

 注目すべきは、00年以降の伸長率で、米国やドイツ、ベルギー向け輸出がほぼ横ばいに留まっているのに対し、この15年間でインドやタイが8‐9倍、中国が約17倍、インドネシアが約23倍、香港が約40倍に急増している点である。全体でみてもMCの輸出は15年間で約3倍になり、年率に換算すると毎年8%程度の堅調な伸びを重ねてきた計算になる(図3)。

  • 図2:マシニングセンターの2015年輸出額構成比(上) 図3:マシニングセンターの輸出先国・地域別ランキング(下)

高品質・高効率ニーズへの対応 提案営業が強みに

 近年、新興国の工業が力を付けたことによって、各所で日本企業と競合することになった。一方で新興国の工業の発展は、産業機械への需要拡大を意味することであり、日本製MCの新たな商機になっていることも、また間違いない。

 輸出の増加だけでなく、機械ユーザーが新興国に生産拠点を設ければ、新たな納入チャンスが生まれる。現地生産品とはいえ、日本国内レベルに近い品質水準を求めるなら、日本製の産業機械でないと対応できないからである。

 さらにより大きな動きで言えば、新興国企業のモノづくり能力が向上してくると、高品質・高効率・高耐久性への要求が高まるのは自然な流れであり、日本製のハイエンドな機械への需要が高まる。

 新興国に工場を持つ工作機械ユーザーは、日系であろうとローカル系であろうと、低価格要請が強い現地市場を相手にしなければならない。人件費相場も調達品相場も同じ条件下では、日本製MCのような高性能な産業機械の採用は、省力化や歩留まりの向上を通してコストダウンに大きく寄与する。

 日本製機械の単体価格は高いが、ユーザーの生産工程の効率化が実現できて、すぐにモトが取れてしまうケースも多い。そうした技術提案、いわゆるエンジニアリングセールスができれば、価格競争に悩むユーザーのニーズを取り込むことができる。こうした提案営業は、カスタマイズ能力に優れた日本の機械メーカーの強みだ。

 加えて(1)現地ユーザーの技術レベルを把握した上で技術ギャップに配慮した適切な提案を行い、高性能機械の有効性を伝える工夫をする(2)万が一の機械の不具合も想定し、ユーザーの不安を丁寧に払拭(ふっしょく)しつつ、現地での十分な技術サポートを徹底する。これらのポイントを押さえることで、今後も引き続き外需を取り込んで行くことが期待できる。

(2016/10/14 12:00)

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