[ 機械 ]
(2016/10/14 12:00)
レーザー加工技術を利用すれば、高速・高精度で、かつ高効率・省資源な加工が行える。また、レーザーは実時間での高速制御が可能であり、ロボットやIoT(モノのインターネット)との親和性が高いので、例えば、ドイツがモノづくり分野で推進している第4次産業革命「インダストリー4.0」では、レーザーを用いた生産技術が主要な研究開発テーマとして組み込まれている。わが国でも本年度から新たな国家プロジェクトが始動するなど、各国の動きも活発だ。ここではこれら加工技術開発のトレンドや今後の展望について述べる。
◇パラダイムレーザーリサーチ 社長 鷲尾邦彦
レーザー関連投資の拡大
経済産業省の「経済産業政策の重点」(2015年8月)では、中長期的なわが国の産業競争力の向上などのために投資すべき分野を中心に技術戦略を策定し、それに基づき新たな研究開発プロジェクトを戦略的に企画・実施していくとしている。その具体例の一つとして「高輝度・高効率次世代レーザー技術開発」を取り上げている。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のIoT推進部が担当する国家プロジェクトとして、スタートしたところだ。
またレーザー加工分野の調査コンサルティング会社のオプテック・コンサルティング(スイス)によると、世界におけるレーザー加工機市場の近年の平均成長率は年率7%であり、これは工作機械のそれをかなり上回っている。また同社によれば、15年のレーザー加工機の世界市場は約118億ドルであり、このうち加工用レーザー発振器の市場は約32億ドルであった。
レーザー発振器市場の内訳は、気体レーザー(炭酸ガスレーザーおよびエキシマレーザー)が約12億ドル、ファイバーレーザーが約12億ドル、固体レーザーが約8億ドルであった(なお、ファイバーレーザーおよび固体レーザーの励起用半導体レーザーはそれぞれのレーザーに含まれている)。
以前は、加工用レーザーの機種別シェアは、気体レーザーが断然トップであったが、近年ファイバーレーザーのシェアが急成長し、15年には気体レーザーとほぼ同率になった。ちなみに、ファイバーレーザー応用生産装置の用途別国内生産額年次推移を図に示す。ここで示すようにわが国でも、ファイバーレーザー応用生産装置の生産がレーザー切断用を中心にして最近、急増している。
また、16年3月には、米国の大手レーザー発振器メーカーであるコヒレントが、ドイツの大手のレーザー発振器および加工機メーカーであるロフィン・シナール・テクノロジーを買収額約9億4200万ドルで吸収合併するというニュースがあった。4月にはファナックがファイバレーザーの新工場に100億円を投資するというニュースもあり、レーザー加工関連の大型な開発投資や設備投資が最近めざましく活発化している。
国内外で進む新たな技術開発
レーザー加工分野で世界的に有名な米国レーザー協会(Laser Institute of America=LIA)主催のICALEO (International Congress on Applications of Lasers&Electronics)国際会議が今年は第35回として、10月16日-20日に米・カリフォルニア州サンディエゴで開催される。
この会議のアドバンストプログラムによればオーラル講演件数は、基調講演6件、マクロ加工会議110件、ミクロ加工会議25件、ナノ加工会議25件など計193件あり、ポスター講演は50件である。このうち、講演件数が最も多いマクロ加工会議について、技術分野別の講演予定件数およびシェアを調査した結果を表1に示す。
ここから分かるように、レーザー加工機市場ではシェアが大きな切断加工を含む除去加工分野のシェアは、マクロ加工会議では約12%程度でしかなく、それよりも溶接および付加加工分野がそれぞれ約34%、約33%を占めている。特に、現在はまだそれほど市場規模は大きくないが、アディティブ・マニュファクチュアリング(3Dプリンター)分野を含む付加加工分野が会議ではかなり大きなシェアを占めていることが注目される。
また、国内外における、現在ホットな技術開発テーマの事例を表2に示す。ドイツのBMBF(連邦教育研究省)では現在、自動車などの軽量化のためのレーザー応用生産技術並びに加工用レーザーの高効率化の二つのイニシアチブの下にそれぞれ多数の研究開発プロジェクトを推進中である。
また、欧州Horizon計画では、官民連携(Public Private Partnership=PPP)によるFoF(Factories of Future)2016プログラムの中で、レーザーによる付加加工などを活用した設計から生産製造までのリードタイムの短縮や、個別生産の迅速化などに関する研究開発を推進中である。
今後の産業利用への期待と課題
ロボットが産業用だったものから生活支援用にまで活躍の場を広げてきたように、レーザー加工も工場内のみでの「モノづくり」用から、土木・建設現場など、社会インフラ建設用などにも幅広く利用されていくことが期待されている。
それには、屋外での移動および使用も簡易となるよう、レーザー加工装置の一層の高効率化、小型・高出力化、低コスト化、標準化、作業用ロボットなどとの協調制御の高度化、レーザー安全防護装置の高度化などの推進が今後の課題である。また、オープン・イノベーションの取り組みを加速して、レーザー加工分野での中小企業における研究開発力の底上げを計ることも、今後の課題として挙げられる。
(2016/10/14 12:00)