[ 機械 ]

記者の注目点/ことしの日本国際工作機械見本市

(2016/11/1 10:30)

 ことしの日本国際工作機械見本市「JIMTOF2016」(11月17-22日、東京ビッグサイト)は、工作機械ユーザーにとっては見ておかなくてはならないイベントになりそうだ。IoT、ロボット、人工知能(AI)、アディティブ・マニュファクチャリング(=積層造形技術、AM)といった新しい技術がモノづくりを大きく変えようとしている。今はその転換期といってもよいだろう。米国の大型展示会である米国製造技術展「IMTS」が商談を中心にしたビジネスショーであるとすれば、JIMTOFは先端技術を披露するテクニカルショーだ。ここから3年後、5年後、10年後の製造業の姿が透けて見えるだろう。

  • 来場者でにぎわう14年のJIMTOF

IoTめじろ押し

 ファナック、DMG森精機がIoT技術で相次ぎ大型の協業を発表した。ファナックは工場用IoT基盤「フィールド・システム」で、NTTや米シスコシステムズなど4社との協業のほか、200社以上とシステム確立に向けて連携し始めた。工場全体をIoT化し、故障予知や設備の機能向上、生産革新などにつなげるシステムだ。

 10月5日には、米エヌビディアとの技術提携を発表。ファナックのロボットにエヌビディアのAI用半導体を搭載し、ロボットが自ら動作を効率よく学習できるようにするという内容だ。

 DMG森精機はマイクロソフト(MS)との協業を始めた。IoT技術をフル活用したいわゆる「スマートファクトリー」を実現するため、MSの組み込みソフトウエア、安全性の高いクラウドを使う。

 ファナックは年内に「フィールド・システム」を、DMG森精機は17年春にMSとの第1弾製品・サービスをそれぞれ投入する計画だ。JIMTOFで関連する情報が聞けるかも知れない。

  • JIMTOFでは牧野フライス製作所もIoT関連の展示がありそうだ

 また、牧野フライス製作所もIoT関連の発表がありそうだ。同社はどちらかと言えばこれまでIoTに関して積極的な発言はしてこず、IoTと距離を取っている印象だった。ところが今年度に就任した井上真一社長はIoTを重視していく戦略を掲げている。実際、IMTSでは関連のパネル展示をしていた。JIMTOFでその詳細が見られそうだ。

 ジェイテクトは加工中の工作機械の状況を示すビッグデータ(大量データ)からトラブルの兆候をつかみ、加工品質の向上や保全を効率化するソリューションをJIMTOFで披露する。データの蓄積・解析をクラウドのサーバーだけで作業するのではなく、工作機械に接続したモジュールでも分散処理する「エッジコンピューティング」技術だ。マシニングセンター(MC)や研削盤に各種センサーと解析用のモジュール「TOYOPUC―AAA」を設け、加工にかかわるビッグデータの収集・解析する。研削盤での活用では、砥石(といし)の状況、クーラントの温度など対応製品、センサーで捉えたさまざまな情報をTOYOPUC―AAAで解析。研削焼けが起こるのを予測して抑制できる。

中堅メーカーもIoT

 中堅メーカーからもIoT対応の製品が出てきそうだ。例えば、碌々産業(東京都港区、海藤満社長)。創業110年を超える工作機械業界きっての老舗だ。現在は精度が1マイクロメートルにもなる微細分野に特化している。微細加工機は人間がそばに立っただけで精度に影響が出るという繊細な機械だ。設置された環境が機械本来の能力を発揮するのに極めて重要となる。

  • 碌々産業はIoT対応の新製品を披露する

 碌々産業はRa(平均粗さ)2ナノメートル以下を目指した微細加工機「ジェネシス」を新規開発した。これをIoT対応として、搭載したセンサーを使い、稼働状態を24時間リアルタイムで監視する初めての試みをJIMTOFを機に始める。これまでユーザーまかせだった機械稼働時の問題把握・解決を、機械メーカーとしてユーザーとともに実現する考えだ。ゆくゆくは集めたビッグデータを解析し、機械学習技術をもとにした加工支援サービスを提供する方針だ。

 自動化技術としては、ニイガタマシンテクノ(新潟市東区、常平典明社長)が新型のマシニングセンター(MC)と搬送装置などで構成するFMS(フレキシブル生産システム)の販売を強化する。10月中旬には、自社工場に新設したばかりのFMSをJIMTOF事前内覧会として公開した。

積層造形で超大手の新規参入も

 現在、AM製品の開発に成功し、販売している工作機械メーカーは、松浦機械製作所、DMG森精機、ヤマザキマザック、ソディックなどだ。さらに三菱重工業や東芝機械が国家プロジェクトで開発中だ。

 新型機の出展としては、ソディックの大型金属3Dプリンターがある。「OPM350L」で最大350ミリメートル角の出力ができる。2年前の前回JIMTOFで発表した第1弾製品は同250ミリメートル角だった。質量は従来比3倍の300キログラムまで対応する。複数のレーザーを用いるため、大型の造形物であっても高速造形できる特徴がある。

 海外メーカーで金属3Dプリンターに本格参入するのが、板金機械大手の独トルンプだ。自社製のファイバーレーザーを搭載する装置で100ミリメートル角の出力ができる。

 前述の通り、大手の主要メーカーが金属3Dプリンターを販売している。ドイツ勢が開発で先行し、米GEが自社装置への採用を本格化している。このほど金属3Dプリンターメーカー欧州2社の買収を発表するほどの熱の入れようだ。こうした現実の中、これまで未参入できた工作機械大手がJIMTOFで製品発表しそうな雰囲気がある。

  • 盛況だったIMTS(米シカゴで9月に開催)

工作機械自身も進化

 今回のJIMTOFでは、IoTに限らず、工作機械そのものの技術の進歩も当然見られるだろう。

 シチズンマシナリー(長野県御代田町)は自動旋盤の切りくず排出を工夫する技術「低周波振動切削(LFV)」の搭載機種を増やす。2013年に素形材加工のチャッカー機に採用、ことし4月に主力の自動旋盤「L20」に搭載し、発売した。JIMTOFでは小径ワーク向けの自動旋盤「L12」のLFV仕様を披露する。

 LFVは、加工時に工具を振動させ、切りくずを細かく分断して排出する仕組み。工具、加工対象物(ワーク)に切りくずが絡みにくく、ワークの傷付きを抑制できる。装置内に貯まる切りくずの体積を半分以下に減らせるため、長時間の連続無人稼働に向く。

 一方、ことし10月に台湾の友嘉実業集団の傘下に入った新日本工機。出展する新型機は、1分当たりの切りくず排出量を従来比2倍に増やした門型5面加工機だ。出力同2倍の1200ニュートンメートルの主軸モーター、主軸周りを構成するラムに高強度材料の使用、コラムを四角柱にすることなどで高性能化した。

 過去最大の出展規模になるJIMTOF2016。モノづくりの転換期だけに、明日の製造業を占う見本市として、重要度が高まっている。

(2016/11/1 10:30)

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