[ 機械 ]
(2016/11/9 19:00)
高圧水を小径ノズルから噴射するウオータージェット加工の活用が広がっている。軟質材は水のみで切断可能であり、硬質材はウオータージェットに研磨材(アブレシブ)を混入することにより炭素繊維強化プラスチック(CFRP)やチタン合金などの難削材も加工できる。ポンプの高圧化による低コスト化は最近のトレンドである。また、ウオータージェットを水中に噴射するキャビテーションジェットにより、洗浄やバリ取り、表面処理なども行える。
◇日本ウォータージェット学会前会長 祖山 均(東北大学大学院 工学研究科 教授)
ポンプの高圧化による切断低コスト化
環境負荷低減のため航空機・自動車などの輸送機器の軽量化が推進され、CFRPやチタン合金などの難削材の使用が広がるとともに、その高精度な加工が望まれている。特に複合材料の加工においては、加工時に繊維などの強化材と樹脂などの母材との剥離を極力避けるため、アブレシブを混入したウオータージェット(アブレシブウォータージェット)が広く用いられつつある。CFRPと脆性材料(ガラス)の切断事例を写真1に示す。
金属材料(ハステロイ、チタン合金、インコネル、ニッケル、ステンレス鋼、ジュラルミン、銅、アルミニウムなど)や複合材料(CFRPなど)、脆性材料(ガラス、大理石、セラミックスなど)の切断に広く用いられているアブレシブウオータージェットによる切断加工では、研磨材の購入費や産業廃棄物処理費がランニングコストの大半を占める。
一般的なアブレシブウオータージェット加工では、ノズル出口近傍(きんぼう)に研磨材を混入し、ウオータージェットにより研磨材を加速して、加工面に衝突させて加工する。ウオータージェットの速度は噴射圧力の平方根に比例するため、噴射圧力が高くなるほどウオータージェットの速度が速くなり、その結果、研磨材の速度も増大して運動エネルギーが高まる。このため単位時間当たりの加工効率が向上する。
図にはウオータージェットの噴射圧力の高圧化に伴う加工効率の変化について、実験式から導き出した加工速度とコスト(単位加工長さ当たりの研磨材消費量)の関係を示す。現在、アブレシブウオータージェットに広く用いられている噴射圧力350メガパスカルの場合と、最近開発されたポンプにより同600メガパスカルの場合について比較している。
図中の右斜め上向きの矢印で示すように、噴射圧力が一定の条件で研磨材供給量を33%増大させた場合には、切断速度は向上するものの加工速度の向上は19%に留まる。結果的に単位加工長さ当たりの研磨材消費量は12%増えてしまい、コスト増大につながる。すなわち、ウオータージェットの噴射圧力が一定で研磨材供給量を増やした場合には、加工速度は増大するもののコストは増大する。
一方、ウオータージェットの噴射圧力を増大させた場合には、同じ研磨材供給量でも研磨材の個々の運動エネルギーが大きいので、加工速度が向上する。図2中の右斜め下向きの矢印で示すように、噴射圧力を350メガパスカルから600メガパスカルに増大させた場合には、切断速度が35%増大する一方、研磨材消費量は26%減少するのでコストを低減できる。すなわち噴射圧力を増大すれば、単位加工長さ当たりの研磨材消費量(コスト)を減らした上で、加工速度を増大できる。
ウオータージェットの噴射圧力の増大は、高精度化・微細化の観点からも有効である。アブレシブウォータージェットによる切断では、アブレシブウォータージェットの噴射側のほうが反対側よりも切断幅が若干広い。現在は、この切断面の傾きはノズルを5軸制御して製品側が直角になるように補正している。噴射圧力の増大により、研磨材の個々の運動エネルギーが増大するとともに研磨材消費量も少なくなるので、ウオータージェットの噴射側と反対側の切断幅の相違が小さく、切断面が直角に近くなる。従って高圧化によりウオータージェット切断のさらなる高精度化・微細化が可能になる。
ゴムや発泡材、不織布、皮、段ボール、紙、紙製品、食品などはウオータージェットのみ(水のみ)で切断できる。水のみで加工する場合もウオータージェットの高圧化により加工速度を増大できるばかりでなく、水のみで切断できる対象物が格段に増えるので今後、ポンプの高圧化によるウオータージェット技術の新たな展開が期待される。
泡で金属をたたいて強くする
ウオータージェットを水中に噴射すると、ウオータージェットの周りにキャビテーション(気泡)が発生する。キャビテーションを伴うウオータージェットをキャビテーションジェットと呼ぶ。キャビテーションとは、液体の流速が増大して圧力が飽和蒸気圧まで低下し、液体が気体に相変化する現象。流速が低下すると瞬時に気体が液体に戻り、その際に金属材料も破壊する局所的な衝撃力を発生する。
キャビテーションは一般には、ポンプやバルブなどを損傷する害悪であるが、キャビテーション圧潰時の衝撃力を逆転発想的に、金属部品などを叩いて強くする機械的表面改質や洗浄、バリ取りなどに有効利用できる。従来技術としては金属やガラスなどの粒子を投射するショットピーニングがあるが、ショットピーニングでは固体衝突により表面粗さが増大してしまう欠点がある。
キャビテーション衝撃力を活用するキャビテーションピーニングは、固体接触を生じないので、表面粗さの増大を極力抑制して金属材料を強化することが可能である。またキャビテーションが圧潰する領域を表面改質できるので、ショットが届かない狭い箇所や曲がった管内などもキャビテーションを流し込むことにより、キャビテーションピーニングで処理可能である。
これまでにキャビテーションピーニングによるステンレス鋼やクロムモリブデン鋼、アルミニウム合金などの各種金属材料の疲労強度が実証され、歯車や航空機部品、自動車部品などの各種機械部品の疲労強度向上も実証されている。写真2には歯車をキャビテーションピーニングで処理する際の様相を示す。また、水素社会実現の障壁となっている水素脆化についても、キャビテーションピーニングにより水素脆化を抑止できることが明らかにされている。
通常は水を満たした容器にウオータージェットを噴射するが、大気中に低速のウオータージェットを噴射してその中心部に高速のウオータージェットを噴射することにより、大気中に直接的にキャビテーションジェットを形成する気中キャビテーションジェットも実現され、鋼板の製造ラインなどに実用化されている。
前述したようにウオータージェットによる切断では、噴射圧力を高圧化したほうが良いが、キャビテーションジェットでは、キャビテーションの圧潰衝撃力を活用しているので、大口径のノズルを用いて比較的低圧で噴射したほうが加工効率が良い。単に噴射圧力を高めた場合には加工効率が低下するばかりでなく、加工面を損傷する危険性がある。
キャビテーションジェットではキャビテーションを大きく発達させて圧潰する必要があるので、好適なノズル形状はウオータージェット用ノズルとは大きく異なることに注意が必要である。
(2016/11/9 19:00)