炭素繊維複合材料のエンドミル加工について

(2016/11/11 05:00)

 炭素繊維複合材料(CFRP=炭素繊維強化プラスチック、CFRTP=炭素繊維強化熱可塑性プラスチック)は炭素繊維の高強度特性に加えて、繊維の方向や樹脂の種類によって機械的性質が全く異なる異方特性を併せ持つ。その機械加工は工具摩耗が著しく、繊維のバリや層間剥離が生じやすい難加工材料である。ここではCFRP加工用工具の特徴と異方特性が加工面性状や工具摩耗に及ぼす影響について紹介するとともに、今後、自動車用途として注目されているチョップファイバーを用いたCFRTPの課題についても紹介する。

◇徳島県立工業技術センター 主任 小川 仁

高機能化要求に対応

  • 写真1 CFRP産業部品「アスカ(徳島県上坂町)製作品」

 炭素繊維複合材料は炭素繊維の軽量、高強度、高弾性特性により航空機およびスポーツ用途を中心に市場が拡大している。近年、低炭素社会の実現に向けて燃費向上が不可欠である自動車用途において注目が高まっている。さらに、その優れた機械的特性に加えて低熱膨張、耐食性、化学的安定性を併せ持つため、高機能化を付与する代替材料としてさまざまな産業部品(写真1)に幅広く応用が進んでいる。

 また同素材は熱硬化性樹脂をマトリクスとしたCFRPと熱可塑性樹脂であるCFRTPに大別され、現時点ではCFRPが主流である。いずれも要求する機能を満足するよう炭素繊維や樹脂の種類および積層構造を選定する、いわゆる材料設計を必要とする素材であり標準品というものは存在しない。

 一般的にCFRP部品の製造では、一次加工で樹脂が含浸されたプリプレグシート(炭素繊維を同じ方向にそろえた一方向材と炭素繊維の束を縦横に織り込んだクロス材がある)を積層し、オートクレーブなどを用いて加熱・加圧する。その後、穴開けやトリムなどの二次加工を経て所定の形状に仕上げることが多い。

 しかし高強度である炭素繊維の二次加工では工具摩耗が著しく、また炭素繊維のバリ、抜け、層間剥離(デラミネーション)などの不良は加工面性状や形状寸法を悪化させるだけでなく、製品機能を大きく低下させる。

  • 写真2 CFRP専用エンドミル

 これらCFRP特有の難加工性に対し工具メーカーよりCFRP加工用エンドミル(写真2)が販売されている。主な特徴は弱ねじれ角の切れ刃によりスラスト方向の切削抵抗を低減させ、バリやデラミネーションの発生を抑制する。また切れ刃に設けたニックは、切りくずを分断し切削抵抗および切削熱の抑制効果を示す。

 さらに工具摩耗についてはCVD(化学蒸着)ダイヤモンドコーティングにより耐摩耗性を向上させている。なおコーティング膜の厚膜化は切れ刃のシャープさを損ない切削抵抗の増加につながるため、下地の処理とともにダイヤモンド結晶性の制御が重要となっている。

適切な加工条件を選定

  • 図1 繊維方向の違いによる加工面性状

 一方、素材特有の異方特性に起因した課題も重要である。図1はプリプレグシートに一方向材のみを用い、板厚方向に対して2ミリメートル間隔で繊維方向を変化させたCFRP積層体について、エンドミルによる側面切削を行った場合の加工模式図および実際の加工面である。

 ここで工具送り方向と繊維方向がなす角度を反時計回りで定義し、平行な場合を0度とした。加工条件は径方向切り込み量を0・2ミリメートル、切削速度を毎分200メートル、1刃当たりの送り量を0・02ミリメートルとしたダウンカットである。加工面は炭素繊維の方向と切れ刃の作用方向により著しく異なり、特に切れ刃が炭素繊維を引き剥がす方向に作用する45度の場合では加工面のいたる所に損傷(クレーター)が確認できた。

工具摩擦への影響

  • 図2 繊維方向の違いによる切削抵抗と工具摩耗

 また異方特性は切削抵抗および工具摩耗にも影響を与える。図2は繊維方向を0度および90度とし、ダウンカットによる側面切削を行った場合の工具摩耗、さらに切削抵抗のうち、送り方向に働く送り分力とこれと垂直な方向に働く主分力の合成分力を示している。加工条件は同一であるものの、繊維方向により切削抵抗の大きさおよび向きは全く異なり、結果として工具摩耗に大きな差が生じる。

 なお紹介した加工特性はダウンカットを対象としたものであるが、アップカット、さらに径方向切り込み量により加工面性状や切削抵抗および工具摩耗は変化する。高強度かつ異方特性を持つCFRPの加工では、工具のみならず積層構造に応じた適切な加工条件を選定することにより、工具摩耗や加工面性状および加工能率の改善が図れると考えられる。

CFRTPに注目

  • 写真3 チョップファイバーCFRTP(浜松地域CFRP事業化研究会提供)

 以上、CFRPのエンドミル加工について述べたが、今後、自動車用途として生産性と成形自由度にたけたチョップファイバーを用いたCFRTP(写真3)が注目されている。本素材の二次加工では、工具摩耗はもとより熱可塑性樹脂の特性上、加工熱により樹脂が軟化・溶融するため繊維拘束力が弱まり、また、炭素繊維の配向が不規則であるためバリが発生しやすく形状精度の維持が難しい。

 現在、液体窒素や液化炭酸ガスなどの強制冷却法を取り入れた加工実験について取り組み、バリの抑制や加工面性状の向上に効果を示すものの、生産現場で応用できるレベルには達していない。強制冷却法のみならず、工具、加工条件およびその他加工アシスト法など、今後さらに研究価値のある素材であると考えられる。

(2016/11/11 05:00)

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