[ 機械 ]
(2016/11/20 11:00)
欧州に大きく後れを取っていたが、日本にも産業用X線CTスキャナー(XCT)の波が来ているようだ。その契機となったのは、2008年頃の「Dimensional XCT」と呼ばれる装置の登場である。これによってXCTの利用分野が、観察から計測の領域へと拡大した。3次元(3D)計測が可能となり、応用分野は従来の内部欠陥検査から、寸法・幾何公差検査、形状変形評価、リバースモデリングなどへと広がった。
◇東京大学大学院 工学系研究科 教授 鈴木 宏正
産業用X線CTスキャナー
ハードウエア技術としてはX線源、X線検出器などの要素部品や機構構造の性能が向上しており、ソフトウエア技術としては画像処理技術の進化が大きく、XCTの性能向上に貢献している。ソフトウエア技術に関連して強調したい点は、XCTデータのポスト処理の重要性である。
図1は右の写真のエンジンを高エネルギーXCTで撮影したものだが、XCTから得られるデータは雲がかかったような3Dのモノクロ画像であり、設計者が通常目にする3DCADモデルとは全く異なっている。そのため、このままでは業務で利用することはできず、XCTデータから図2のように部品の表面を表す3Dデータを生成するポスト処理が不可欠で、XCT活用の大きなポイントになっている。
さまざまなソフトウエアが利用されているが、XCTデータはアーチファクトやノイズを多く含むために、全自動処理は不可能だ。このため多大な手作業がボトルネックとなっている。図2から図4までは我々の研究室で開発しているソフトウエアの例で、複数の材質からなる組み立て品のXCTデータから、従来のソフトの10分の1程度の工数で、高精度に部品データを作成することができる。
このような処理をセグメンテーションと呼ぶが、組み立て品をそのままスキャンできるというXCTの大きな利点を生かすためには必須の技術である。大型で複雑な組み立て品としては自動車がある。自動車を丸ごとスキャンできるXCTが、ドイツのフラウンホーファーEZRT研究所で、13年に構築されたXXL-CTである。
基本性能の向上で3次元計測が可能
図5はXXL-CTによる独BMWの事例で、クラッシュテスト後の車両をスキャンしたものである。これとコンピューターシミュレーション結果とを比較する。近年、自動車には軽量化のために複合材料が多用されるようになり、このようなXCTを用いた実験とシミュレーションとの擦り合わせが試みられている。
ここではXCTの技術トレンドの一部しか紹介できなかったが、今年のJIMTOFでは各社から最新技術の展示が行われており、ご自分の目で確かめ、それぞれの業務に活用する機会となることを願っている。
なお、ここで紹介したソフトウエアは東京大学において新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託業務として開発をしている。
【11/16付本紙別刷「JIMTOF2016特集」より】
(2016/11/20 11:00)