[ 機械 ]
(2016/12/8 11:00)
秋も深まり、肌寒さを感じさせる東京でJIMTOF2016(第28回日本国際工作機械見本市)が東京ビッグサイトで開催された。これに先立って米シカゴで行われたIMTS2016(シカゴショー)は、情報化時代を見据え、工作機械、工具メーカーの展示に新たな傾向が見られた。それはネットワーク機能を備えた数値制御(NC)装置の登場で、生産管理や稼働状況など広範囲な情報管理を行うシステムの紹介である。工具はこれまでのカタログによる工具選択から、ネットでユーザーが的確な工具選定や切削条件の決定をタイムリーに実行できるクラウドの提供が始まった。多くの工作機械展示ブースにおいて、アディティブマニュファクチャリング(付加製造、AM)が紹介され、型および部品生産技術の新たな提案があった。ここでは今回のJIMTOFを視察し、新たな傾向と注目された製品、技術について紹介する。
◇松岡技術研究所 所長 工学博士・技術士 松岡 甫篁(としたか)
情報化でNCの変革時代の幕開け
NC装置はネットワーク機能に加え、切削の高度化を指向した新たな試みが見受けられた。例えば図1は、新開発のモーションコントローラー機能で、各送り駆動系の俊敏性と高速化を目指し、精密・微細切削の高品位化を実現した。
実機には切削加工するNCプログラムの解析能力を持つシミュレーターソフトウエアを標準装備、実切削を忠実に再現できる切削加工時間、切削速度分布などをディスプレー上で見ることができる。さらにネットワークに接続した工作機械の機械稼働状況などを一元管理、IoT(モノのインターネット)対応のソフトウエアを持つ。
今回は多くの工作械機メーカーからネットワーク機能を利用した管理システムが提唱され、モノづくりは情報化時代を迎えたことを感じさせた。NCプログラムは、対応する加工形状パターンを選択すると最適な工具候補が示される。工具選択後に工具軌跡、切削条件などデータを提供するクラウドが登場するなど、ネットワークを活用したプログラミングの取り組みが始まった。
ハイブリッドNC加工機の登場で変化が期待できる部品の高機能化と生産技術
今回は金属材料を一層ごとに連続して積層し、所定の形状を造形する方式を中心に紹介されていた。元来AMは、試作品や少量生産品の生産に限られ、大量生産には向かないとされていた。しかしながら米国において3次元積層造形装置を大量に導入、航空機部品を量産する報道があり、モノづくりは多様化時代を迎えた。
例えば、ヤマザキマザックの展示ブースでは、異なった方式のハイブリッド複合加工機を複数台並べた積極的な展示実演が見学者の注目を集めていたので紹介する。
(1)レーザー式金属積層造形技術
ノズル先端より噴出される金属粉をレーザーで溶融・凝固させながら肉盛り、ニアネットシェイプ化、適時に切削を繰り返し所定の形状に仕上げる方式。複数の金属積層造形ヘッドをマガジン内に収納でき、加工条件や金属粉の素材に合わせて交換が可能である。
(2)マルチレーザー式金属積層造形技術
複数のレーザービームをヘッド先端より照射し、中心部より噴出される金属粉末を効率良く溶融し積層する新しい技術。吐出する金属粉末を効率よく溶融させ、母材への熱影響を低減することができ、微細な形状加工や熱影響が問題となる薄板母材への形状加工に有利である。5軸制御マシニングセンター(MC)に搭載して使用する。
(3)ワイヤアーク式金属積層造形
市販のワイヤアーク溶接装置をAM装置として採用。5軸立型MCのミーリング主軸に取り付けられた溶接トーチをプログラマブルに制御することで、溶接作業の自動化と切削加工工程との融合による工程集約を実現した。
(4)摩擦撹撹拌(かくはん)接合技術
材料を溶かして接合する従来の溶接とは異なり、摩擦熱で軟化させた材料を撹拌接合するもの。接合部に溶接剤などを用いず、変形やゆがみが少なく、かつ疲労強度の高い接合が特徴。図2に、同装置を搭載したMCと実演風景を紹介する。複合素材による型、部品における高機能、高特性化の実現が可能になる。
今回の展示で注目された製品と技術の一端を紹介する。ロボットによる部品生産の自動化が注目されているが、ロボットによるバリ取り作業実演が多くの展示ブースで見られた。この理由として自動化指向に加え、ロボットの高機能化、低コスト化、プログラミングの容易化、パラレルリンク方式など多様なロボットの開発などが挙げられる。
図3は新開発のMDS装置(マイクロドリルシステム)をロボットに装着し、小物部品の多面な微小径穴の実演風景である。毎分6万回転の主軸とドリルメーカーの切削ノウハウを取り入れたドリル送り駆動系を内蔵した装置で、安定した微小径ドリル切削が可能な提案である。この装置は大型MCなどに装着することで、大型部品の微小径ドリル切削を安定して行うことも可能である。
日本のお家芸 超精密切削加工
図4は同時6軸制御方式の超精密加工機の実演風景である。自由曲面上の2方向に面直加工を実現。1ナノ分解能送りのX、Y、Z軸、ワーク回転軸C軸との同期で、レンズや照明などの金型表面への多彩な加工が可能である。送り駆動系は独自開発の超精密リニアモーターを採用している。
超精密切削加工技術は元来、日本のお家芸的な存在であり、大型部品における超精密加工機の登場である。エンドミル切削でナノメートルレベルの超精密面(鏡面)を実現した工具と切削サンプルは複数の展示ブースで見られ、切削適用範囲は新たな領域を実現している。図5では切削による磨きレス化の展示風景を紹介する。
(2016/12/8 11:00)