[ 機械 ]
(2016/12/8 11:00)
東京ビッグサイトで開かれたJIMTOF2016(第28回日本国際工作機械見本市)は11月22日に6日間の会期を終え、盛況のうちに幕を閉じた。過去最大の出展規模となった今回は、2014年開催の前回より約1万1000人も多い14万7602人の来場者を集めた。会場で最も関心が高かったのが、各社がこぞって披露したIoT(モノのインターネット)だろう。このほかにも、金属3Dプリンターやロボットといった次世代モノづくりの主役たちの前には、何重もの人垣ができた。特に注目された製品、技術を紹介する。
80社・250台つなぐ実演
JIMTOFは欧州の「欧州国際工作機械見本市(EMO)」、米国の「国際製造技術展(IMTS)」と並び、工作機械の3大見本市の一つに数えられる。JIMTOF2016は15年開催のEMO、今年9月のIMTSに比べても、IoTに関連した出展が際立って多く、より具体性のある内容だった。
今年のJIMTOFを象徴したのが、ファナックのIoT基盤「フィールド・システム」だろう。80社・250台の出展機をつなぎ、稼働状況、アラームの発信状況などをモニターで“見える化”する実演をした。
80社には三菱電機やオークマなどコンピューター数値制御(CNC)装置を開発・販売したり、自社搭載したりするメーカーが含まれる。こうした垣根を越えたオープンな仕組みは、異なるメーカーのCNCや工作機械が並ぶ実際の工場に不可欠なものだ。
三菱電機が公開したIoTは、同社CNCを搭載した工作機械の稼働データを、クラウドに集約するもの。主軸モーターの電流値などから、異常の有無を検知する。CNCメーカーのほか、DMG森精機、オークマ、ヤマザキマザック、ジェイテクトといった工作機械大手もIoTによる遠隔監視システムなど新サービスを披露した。
こうして工作機械がつながったことで、何をするかが重要になる。確かに現段階では「まずつなげてみました」という印象を持った来場者もいたようだ。ただ、各社のブースには次のステップを紹介する案内が散見された。各社に共通するのが、機械学習を活用した故障予知だ。いずれも数年内の実用化を視野に入れる。
碌々産業(東京都港区)は微細加工機「ジェネシス」を遠隔監視し、予防保全をするシステムをJIMTOFに合わせ発売した。16カ所のセンサーで温度、空気圧などのデータから異常を把握する仕組みだ。今後、これをベースに機械学習によるサービスへと発展させる考えだ。
金属3Dプリンター拡充
14年のJIMTOFで関心が高かった装置の一つに、いわゆる金属3Dプリンターがある。今回はオークマが新規参入し、ヤマザキマザックやソディックなどの先行メーカーは製品拡充に動いた。日本メーカーは金属粉末にレーザーを照射して形を作り、切削で仕上げるハイブリッド型が中心だ。
ヤマザキマザックは新型機3機種を一気に投入。米国製の立型マシニングセンター(MC)がベースの「VC―500AM」、アーク溶接で積層造形をする「バリアクシスj―600AM」の2機種は、価格を従来機の半分ほどとし、資金面の成約が大きい会社が導入しやすくした。もう1機種の「インテグレックスi―200S AM(M―LMD仕様)」は母材への熱影響を抑え、微細な加工にも向く。
新規参入を果たしたオークマの装置は、5軸制御MCタイプ「MU―6300VレーザEX」と「MULTUS U―3000レーザEX」。同社が業界初と誇る、機内でレーザーによる部分精密焼き入れ機能を採用した。
金属3Dプリンターの基幹技術にレーザーがある。レーザーと工作機械の融合も大きな流れの一つだ。現在は「旋盤×レーザー」の進化が進んでいて、高松機械工業、シチズンマシナリー(長野県御代田町)が実機を展示した。シチズンマシナリーは自動旋盤で加工した二つの加工対象物(ワーク)を、そのまま取り出すことなくレーザーで穴開け、溶接できる技術を開発した。
板金加工ではアマダホールディングスが自社製の発振器を搭載したファイバーレーザー加工機「ENSIS―3015AJ」を出品した。薄板には細いビーム、厚板には太いビームというようにビーム形状を自在に変えられ、効率よく加工できる。ENSISテクノロジーと呼ぶ同技術をロボット溶接機にも搭載し、披露した。
製造業の変革期に対応
IoTを代表例に製造業は変革期にある。これまで工作機械で材料を狙った形に「除去」する加工から、金属3Dプリンターで「付加」する加工へと一部は置き換わりそうだ。こうした時代の変わり目は出展ブースの演出からも見られた。
ジェイテクトはベストセラーの研削盤を20年ぶりに全面改良した「GE4i―PRO」を出品。熱変位補正や制御の技術を使い、経験の浅い作業者でも熟練者並みの精度の高い加工ができるという。実機展示がこの先端モデルと、トライボロジー遺産に認定された販売していない歴史的モデルの2台のみだったのは、目を引いた。
合わせて、ビッグデータを解析するモジュール「トヨプック―AAA」やリアルタイム熱変位補正システム、研削盤で立方晶窒化ホウ素(cBN)と石の加工条件を最適化する新技術をCGなどを使って紹介した。さまざまな生産設備をネットワーク化するIoE(すべてのインターネット化)で工場をスマート化するソリューションの周知を狙った。
一方、この変革期に「革命」をうたったのが岡本工作機械製作所だ。「研削盤革命」として6機種を展示。平面研削盤「PSG208CH―Li」では、切り込み量を従来比10倍の100マイクロメートルに引き上げた。新コンセプトの「MUJIN」は、削りたい量を指示後、スタートボタンを押すだけで研削が始まり、加工が終わると離れた作業者に自動で通知する製品だ。
工作機械業界では加工が難しい新材料への対応も主要テーマだ。スギノマシン(富山県魚津市)は最大水圧が従来比2倍の600メガパスカルの5軸制御ウオータージェット加工機「アブレシブジェットカッタ NC―5AX」を開発、展示した。複雑形状の難加工材を精度よく、効率的に加工する設計だ。
また、継続的な設備需要の拡大が見込まれる航空機分野を意図した出展も相次いだ。中堅では、エレニックス(神奈川県座間市)が位置決め精度と加工精度を高めた細穴放電加工機「CT300FXIII」を投入した。
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次回のJIMTOFは18年11月16日に開催予定。2年間のうちに製造業はどう変わり、IoTや機械そのものがどこまで進化しているか、楽しみだ。日進月歩とは言うが、その歩みは加速している感があり、工作機械ユーザーはこれまで以上にアンテナを高く張る必要があるだろう。
(2016/12/8 11:00)