[ ロボット ]
(2016/12/16 05:00)
■全国600の高齢者福祉施設で活用されるコミュニケーションロボット■富士ソフト(下)
高齢者福祉施設で活用されるPALRO ビジネスシリーズ
PALROビジネスシリーズがもっとも多く導入されているのが高齢者福祉施設だ。既述のように全国600の高齢者福祉施設でPALROが活用されている。PALROの基本機能は会話、歩行、記憶、インターネットやクラウドへの接続であり、それに加えて歌やダンス、クイズ、ゲーム、体操、レクリエーションの司会・進行といった機能が装備されている。
PALROは会話を通じて話相手と友達になれる。「○○さん、おはようございます」と個別に利用者を認識して声をかける。友達は100人以上を登録でき、性別、年齢、誕生日、趣味・嗜好なども記録するので、それぞれの人に適した話題をちりばめながら会話ができる。
また、レクリエーションの機能は、365日、日替わりで対応できるほど多様なコンテンツを備え、体操の機能の中には、PALROを用いた実証実験「転倒予防・体力向上運動プログラム」をもとに開発され、介護予防効果が証明された体操も搭載してある。
富士ソフトがハイブリッド構造のAIを開発したのは、「PALRO本体に持つフロントエンドAIとクラウド上のAIとのリンクをきちんと取りながらハイブリッドで駆動していないと最適なAIサービスを提供できない」(渋谷正樹常務執行役員プロダクト・サービス事業本部長)という考えからだ。
PALROは相手に傾聴、同調し、共感するロボットである。そのためには、まず相手を正確に認識することが重要だ。そしてリアルタイムに人を追従し、認識しながらさまざまな会話をする必要がある。
PALROは、話す相手の目、鼻、口、輪郭などの特徴的部分を高密度にマッピングして顔と名前を一致させ、コミュニケートする相手が誰なのかを認識してから、相手の性別、年齢、誕生日、趣味・嗜好などの属性情報を加味しながらさまざまな話題で話かける。
会話中の相手を常に分析する
こうして会話を始めたPALROは、常に会話中の相手を分析している。たとえば、特定のテーマについて問いかけたとき、答える相手の顔の表情や声の質、レスポンスの速度などからそのテンションを分析する。それにより、そのテーマに対する利用者の嗜好性や人気の度合いといったデータが得られる。「あるテーマについては、毎日決まった時間に話しかけるように設定しています」(渋谷常務執行役員)
それにより多くに利用者の声(反応)を収集し、そのテーマに対する情報をデータとして蓄積する。その特定のテーマは高齢の利用者にとって非常に興味を引かれるものでありながら、身体的な機能の低下によって興味があってもそれへのテンションが常に下がり気味になってしまうという。現在、そのテンションについての情報をPALROとの会話を通してより多くの人から収集・蓄積しているが、将来的にはそのデータをクラウドAIで分析すれば、テンションが下がり気味のテーマに対してモチベーションを向上させる方策も可能になるだろう。
高齢者福祉施設の現場スタッフの仕事は多忙を極め、5分間の休憩を取るのも難しいのが現実だ。そのような状況下でも現場スタッフは、利用者1人ひとりの情報をしっかり把握している。そこでさらに特定のテーマに対してPALROとの日常会話に含まれるひと言やテンションをAIで分析し、テンション低下から脱してモチベーション向上へと転換させる提案(=新しい価値の提供)ができれば、PALRO はIoT の環境下でその役割を大いに発揮することになる。
「今後、スタッフの方々が直接聞き取れないような子細な情報を収集・蓄積する中で改善案などが提供できるようにもなると思います」(渋谷常務執行役員)
そのために現在、フロントエンドAIで収集したビッグデータをクラウドAIで解析し、それをPALROを導入している施設にフィードバックすることについて検討を始めているという。
「これからも高齢者福祉施設の抱える課題について、AI やIT で解決したいと考えています。PALRO の介護保険適用など制度面も含めて改善していく必要があると思います。また、いまはあらゆる分野でAI テクノロジーが求められていますので、新たな分野にも提供していきます」(同)
高齢者福祉施設に続き、富士ソフトは金融機関など他の産業分野にもPALRO を幅広く展開していく予定だ。
(2016/12/16 05:00)