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[ 自動車・輸送機 ]
(2017/1/1 05:00)
航空機関連事業を手がける重工メーカーの2017年は、生産自動化やIoT(モノのインターネット)といった先端技術の導入がさらに加速しそうだ。為替の乱高下による利益への影響など、各社の事業運営を取り巻く環境は厳しさを増している。生産性改善に伴うコストダウンを目指し、ITや自動化ノウハウを最大限に活用。長年培ってきたモノづくりのノウハウと先端技術との相乗効果で、荒波を乗り越える。(長塚崇寛)
【小型機シフト】
機体部品やエンジン部品を核とする民間航空機事業。各社とも中長期の成長を支える重点事業に位置づけている。今後も安定的な市場拡大が期待できる同市場だが、ここにきて市場環境に変化も見られる。大型機から中・小型機への需要シフトだ。
これは新興国の景気減速や格安航空会社(LCC)の台頭に伴う小型機需要の拡大が背景にある。日本メーカーと縁が深い米ボーイングも大型機「777」の減産に踏み切る方針だ。利幅の小さな中・小型機で稼ぐには、一層のコストダウンが不可欠。機体部品を供給するサプライヤーへのコスト圧力も大きくなっている。各社は生産性改善やサプライチェーン改革などを軸にコストダウンを加速。取り組みの肝となるのが、IoTやロボットなどの導入だ。
777の後部胴体や尾胴、出入り口ドアを手がける三菱重工業。民間航空機事業の営業利益の通期見通しは16年4―9月期時点で、円高による為替差損やコストダウンの未達が響き、期初予想を大幅に下回る見込み。生産ラインや調達部門の高度化といった抜本的な改革に踏み込む。1ドル=100円の為替レートを前提とした高収益体質の実現を目指す。
777の後継機で17年の量産開始を計画する「777X」でも、同様の部位を担当する。これに当たり、広島製作所江波工場(広島市中区)内に777X向けの新たな生産ラインを構築。胴体部品であるスキンパネル(外板)の組み立てにロボットや生産・品質情報のリアルタイム監視システム、人工知能(AI)などを導入する。
具体的には、パネル部材の治具への組み付けをロボットで自動化するほか、パネル鋼板に補強材を打ち付ける工程にはオートリベッター(自動打鋲機)を採用する。最終工程の検査項目でも計測技術を高度化したり、成否の判定にAIを導入したりすることで、定量評価が困難なキズなどの判定を自動で行えるようにする。
【生産効率向上】
777Xの前部・中部胴体、主脚格納部、後部圧力隔壁、貨物扉を手がける川崎重工業も、名古屋第一工場(愛知県弥富市)に同機種向けの新工場を整備している。胴体外板を継ぎ合わせ締結するスキン・スプライス・リベッターの新型装置や胴体部品(シアタイ)と補強部品(フレーム)を締結する装置を導入。大口径ドリルを保持して自動で穴開けをするロボット、高性能センサーを適用した検査装置など、自社開発の新技術を数多く導入。生産効率の向上につなげる。
富士重工業は777Xの中央翼を担当する。同部品を組み立てる新工場を半田工場(愛知県半田市)内に新設した。17年2月に組み立てを開始し、同年11月に初出荷する計画だ。自動打鋲機や自動搬送装置の導入により、ボーイングが同機の生産に参画する企業に求めるコスト削減に対応する。
新工場では宇都宮製作所(宇都宮市)で加工した部材を7メートル四方の1枚板に仕上げる。大物部品の搬送を現在主流のクレーンから、自動搬送装置に切り替える。これにより連続搬送を実現し、生産性が大きく向上する。
【日本勢存在感】
機体部品とともに、日本勢が存在感を示すのがエンジン部品だ。同部品は多品種少量生産で、利益を確保するには高い生産性が不可欠。国内生産が基本で円高の影響も大きく受ける。
課題解決に向けてIHIは18年度までに、航空機エンジン部品を生産する4工場にIoT技術を導入する。生産状況を常時把握するITシステムや一部工程にロボットを採用。4工場全体で生産性を現状比2倍に高める。協力企業もネットワーク化し、サプライチェーン全体で生産効率を底上げする。
対象とするのは航空機エンジン部品を生産する相馬第一・第二工場(福島県相馬市)、呉第二工場(広島県呉市)、エンジンやガスタービンの組み立てと整備を担う瑞穂工場(東京都瑞穂町)。さらに相馬工場と呉工場の約20社の協力工場をネットワークでつなぎ、生産進捗(しんちょく)を常時把握することも検討する。
低圧タービン部品などを生産する相馬第一・第二工場では、作業者や加工物の位置情報を収集するITシステムを拡充する。ビーコンで作業者やモノの流れを把握し、作業指示を最適化するほか、数値制御(NC)加工機のNC信号を分析して生産ラインの稼働率を改善する。
川重も20年までに、エンジン部品生産にIoTを導入する。西神工場(神戸市西区)の四つの工場棟とチタンやニッケル部品の粗加工を担う約20社の協力会社をネットワーク化。社内外の生産計画や進捗を常時把握するほか、センサーで設備を管理。工期短縮や設備稼働率の向上につなげる。IoT化で工期・工数を15年度比25%削減する。
工場棟や協力会社をネットワークでつなぎ、部材・部品の詳細な情報を共有。統一した生産計画のもと、外注を含む生産の全体進捗をフォローする。膨大な生産データを収集・分析すれば、生産変動が生じた際に高精度な検証が可能。国内外を問わず部品の安定供給を実現する。
民間航空機エンジン事業は初期投資が巨額になる上、投資回収に長期間かかる特殊なビジネスモデルとなっている。このため、中長期の伸びは確実でも毎年、一定の利益を確保し、増産対応するには生産性向上が欠かせない。
(2017/1/1 05:00)