[ オピニオン ]
(2017/1/1 05:00)
2016年はIoT(モノのインターネット)や人工知能(AI)、そしてVR/AR(仮想現実/拡張現実)が大きな話題になった年でした。明けて17年もこの流れを引き継ぐものと思われますが、どういう形で発展していくのでしょうか。そこで米シリコンバレーを拠点にするベンチャーキャピタル(VC)で、日本やアジアのスタートアップにも投資しているフェノックス・ベンチャーキャピタルの共同代表パートナー兼CEOであるアニス・ウッザマンさんに、今年のテクノロジートレンドを聞いてみました。
1.IoTとスマートホーム
17年はIoTが、より現実世界に具体的にインストールされる年。すべてのモノがネットにつながる。スマートホームが当たり前になり、セキュリティーカメラ、洗濯機、冷蔵庫などの家電製品がスマートフォンから操作・制御できる。IoTデバイスの製造自体はここ数年盛んだったが、それらをまとめる全体システムが一般化し、現実世界の一部として重要な機能を果たすようになるだろう。
IoTプラットフォームとしてシリコンバレーの代表的なスタートアップがアフェロ(Afero)。IoT全体のソリューションを提供する会社で、デバイスをIoT化する半導体チップや解析ソフトを取りそろえるほか、データをやり取りするときだけ接続するセキュリティー手法も持つ。ちなみに同社の創業者兼CEOのジョー・ブリット氏は、マイクロソフトに500億円で買収されたデンジャー(Danger)の共同創設者。デンジャーのもう一人の共同創設者はアンディ・ルービン氏で、デンジャー売却後にアンドロイドを創業し、グーグルに買収された。アフェロは、サムスン電子やソフトバンクなどから大型の資金調達を行っている。
そのほか、スマートホームのセキュリティーカメラや室内冷暖房用のサーモスタットを一括管理するヴィヴィント(Vivint)や、IoTと密接に関わるビッグデータ管理のタマール(Tamr)にも注目している。
2.VR/AR
フェイスブックが14年に買収したオキュラスが、ヘッドマウントディスプレーの「オキュラス・リフト」を16年初めにリリースしたことから、VR/AR関連のアプリケーションが一気に増えてきた。「ポケモンゴー」人気の影響も大きい。徐々に立ち上がってきたVR/ARの市場が17年は一気に動くと思う。
中でもARの注目株はメタ(Meta)。ARのヘッドセットではグーグルやマイクロソフトと並ぶ技術力で脚光を浴び、中国・レノボから大型の資金調達もしている。17年初めには「Meta2」のソフトウエア開発キットが登場の予定。さらにネクストVR(NextVR)は、スポーツスタジアムやコンサート会場などに実際にいるかのように楽しめるソリューションを提供。リープ・モーション(Leap Motion)は仮想空間で実際にモノに触れる技術を持ち、オンラインストアで商品を選別して購入するプロセスなどに活用されるようになる。日々の生活の中でも特にエンターテインメント分野でVR/ARが普通に使われるようになるだろう。
3.AI
17年にはAIの業界も大きく変わり、AIを使ったソリューションが当たり前になっていく。中でも注目されるのはパーソナルアシスタント。ここまでパーソナルアシスタントがブームになったのはアップルの「シリ(Siri)」のおかげもあるが、業界のスタンダードをつくったのはアマゾンの「アレクサ(Alexa)」だ。スマートスピーカーの「エコー(Echo)」に搭載されている。グーグルが16年11月に米国でリリースした「グーグル・ホーム」も注目している。
さらに、マサチューセッツ工科大学(MIT)発のソーシャルロボット「ジーボ(JIBO)」は、パーソナルアシスタントの機能とともに可愛らしいキャラクターを持つ。セガやKDDIなども投資していて、17年の発売が期待される。
今後はパーソナルアシスタントのアプリケーションも一気に増えてくる。例えば、感情認識ソフトのアフェクティバ(Affectiva)や、遠隔医療のセンスリー(Sense.ly)、マインドメルド(MindMeld)、アナリティクスMD(Analytics MD)などのアプリが、各企業の提供するパーソナルアシスタントに搭載されていくのではないか。
4.自動運転
昨年12月にウーバーが自動運転車の試験走行をサンフランシスコで開始した。だが、自動運転車の公道走行に必要な承認申請をあえてしなかったため、市当局が差し止め命令を出し、車両を移してアリゾナ州で試験走行を始めることになった。とはいえ、ウーバーのこうした試みが流れを後押しし、日本やアジアも含め、運転手が同乗しない状態で完全自動走行する日がいずれ来るのではないかと予想している。
5.ドローン
ドローンも我々の生活の中で、より大きな存在感を持つようになる。すでに商品の配送向けにアマゾンやアリババが試験的な導入を始めている。ほかに、結婚式や建築現場、スポーツ中継などでも巨大なクレーンによる撮影の代替手段として使用されている。AIを組み込むことでドローン自らが飛行プランを立てながら、障害物を避けて飛ぶことも可能。今後はセキュリティー面での活躍も増えてくるだろう。
6.フィジカルとデジタルの統合
今まで物理的に店舗を所有していたブランドが、オンラインストアに移行する例も出てきた。ウォルマートがその代表例。12月には、ネット販売の覇者であるアマゾンが「アマゾン・ゴー」という実験店舗をシアトルにオープンした。AIやセンサーを駆使したレジなしの食料品店で、現在はまだアマゾンの従業員向けだが、近く一般向けの営業も始める予定という。17年はこのようなフィジカルとデジタルの統合が進んでいく。
7.世界の「ウーバー化」
ウーバーの台頭に伴って、シェアリング・エコノミーの文化が世界を大きく動かすようになってきた。17年もさまざまな分野で、自分の余った時間・資産・サービスなどを他者と共有する「シェアード・エコノミー」のコンセプト(”ウーバー化”)をベースにしたスタートアップが台頭してくるだろう。市場の需要と供給をうまくマッチさせるシェアリング・エコノミーが加速し、例えば冷蔵庫など電化製品の修理をはじめ、庭師、便利屋さんなど、マッチングのプラットフォームモデルによって、簡単にサービスを提供できる人が増えるとみている。
(デジタル編集部長・藤元正)
(次回は1月9日掲載)
(2017/1/1 05:00)