[ オピニオン ]
(2017/2/20 05:00)
IoT(モノのインターネット)をはじめ、最新デジタル技術を一堂に集めた産業分野向けICT見本市の「CeBIT(セビット)2017」が、ドイツ・ハノーバーで3月20−24日に開催されます。今回はパートナー国ということで、日本からは過去最高となる118社・団体が出展の予定。しかも日本企業の約9割が初出展という中で、大企業だけでなく、約半数を占める中小・ベンチャーも、今回のセビットを欧州市場開拓のきっかけにしようと意気込んでいます。
「ドイツと日本の将来の発展に向けて、両国のさらなる協力を目指したい。中でもハノーバーはEU(欧州連合)市場の窓口であり、セビットは日本の企業がEUでビジネスを展開するチャンスになる」。15日に開かれたセビット2017の記者会見で、シュテファン・グラープヘア在日ドイツ大使館臨時代理大使はこう期待を述べました。
企業連携に向けては、同見本市で「ジャパン・パビリオン」を運営する日本貿易振興機構(ジェトロ)も側面支援態勢を整えています。「ドイツはヒドゥン・チャンピオン(隠れたチャンピオン)と言われるニッチ・トップの中小企業が多い。展示だけでなく会期中にマッチングイベントも開催し、ドイツ企業と日本企業の連携を促進することで、日本企業の海外展開に役立てたい」とジェトロの眞銅竜日郎理事は話します。
一方、見本市の主催者であるドイツメッセのハートヴィッヒ・フォン・ザース広報リーダーによると、セビット2017の主要テーマは、人工知能(AI)を筆頭にVR/AR(仮想現実/拡張現実)、そしてIoT。ロボットや自動運転、産業用ドローンもこれらに含まれ、展示だけでなく、それぞれの分野のカンファレンス(講演会)も充実しているとのことです。
記者会見に参加した出展企業も、「デジタル化は中小企業やベンチャー企業を世界に向けて成長させる可能性がある」(ザース氏)という部分に、大きな期待を寄せているようです。
例えば、医療機器部品を製造する金子製作所(さいたま市岩槻区)は、複数の人がメガネをかけずに手術中の3D映像をディスプレーで見られるようにした自社開発の多視点裸眼3D内視鏡システムを出展予定。世界初の技術といい、ソフトウエアの処理速度を高速化することでリアルタイムでの3D表示を実現しました。しかも、医療分野だけでなく、ゲーム機器や産業分野などに技術を広げていくため、セビットで提携先を見つけたいとのことです。
変わり種は、専用LEDと空調システムを使って植物工場事業を運営するスプレッド(京都市下京区)。農産物生産の工業化ではオランダやイスラエルが有名ですが、日本発の人工光および自動化技術を提げて欧州に打って出ようとしています。
そこでもう一つ鍵になるのが、栽培データをリアルタイムに分析し、フィードバックすることで葉もの野菜の安定栽培につなげる新しい農業生産情報システム。同システムを導入する自社の大規模植物工場を4月に着工し、そこで実証を進めながら、設備やノウハウを国際展開していく計画でいます。
そのほか、IoT向けデータ通信プラットフォームで急成長中のソラコム(東京都港区)は昨年12月の米国市場参入に続き、「セキュアで安価なデータ通信」を、またイスラエル出身の起業家が2011年に日本で創業した日本IQP(東京都港区)はIoTなどのアプリケーション開発が行えるノンプログラミング開発ツールを欧州に広げたい考え。後者はドラッグ&ドロップやクリックなどの簡単な操作で、短期間に開発作業が行え、すでにGEデジタルやIBM、トヨタ自動車、富士通などが導入しています。
「セビットを通して、ライバルSAPの本拠地に乗り込んでいく」。こう言葉に力を込めるのは、大企業向け統合業務パッケージ(ERP)を手がけるワークスアプリケーションズの松本耕喜経営戦略室長。すでに52カ国1200社の納入実績がありますが、今回は顧客の業務を日々学習する最新版のAI型ERP「HUE(ヒュー)」を前面に、AIで巨人SAP相手に果敢に勝負を挑みます。
ドイツメッセの日本でのパートナーとして出展・来場誘致を担う日本能率協会の吉田正理事長も、協力だけでなく、「ジャパン・アズ・ナンバーワンを強烈に印象付けたい」と国際競争の部分を強調することを忘れません。
そもそも、セビットのパートナー国としても過去最大規模の出展となったのは、安倍晋三首相が見本市を表敬訪問することから、政府が民間に働きかけて出展者を募ったという側面が大きい。それでも展示会でビジネスが生まれれば、アベノミクスの立派な成果と言えます。AIやVR、IoT関連の日本の製品・技術で欧州市場を開拓する絶好の機会となるのは間違いないでしょう。
(デジタル編集部長・藤元正)
(2017/2/20 05:00)