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[ 化学・金属・繊維 ]
(2017/2/28 05:00)
構造部材用途、普及進むか
全国でイベント
「本命は構造部材での活用」「資源も技術もある日本の知恵の生かしどころ」―2月中旬、東京ビッグサイトで開かれた展示会「国際ナノテクノロジー総合展・技術会議」のCNF関連セミナーでは、通路にあふれるまでつめかけた多数の聴講者に向け、産業用途としてのCNFの可能性について積極的な声が発信された。
現在、CNF関連のイベントは全国各地で開かれ、どこも活況を呈する。市場開拓を進める紙パルプ、化学系の出展社に対し、樹脂、ゴム、フィルム、自動車、電機など企業関係者から大学、自治体関係者まで来場者は幅広い。次世代高機能材料の中でもこれだけ注目を集めるのは、木材資源を生かしつつ、リサイクルの負荷が小さくでき、さらにはさまざまな部材に使用していけばその機能の高さから軽量化が図れ、温暖化対策にも役立つとみられる点だ。
CNFは木質繊維(パルプ)を処理してナノメートルサイズまで細かく解きほぐしたもので、最小単位の繊維素「セルロースミクロフィブリル」の幅は3―4ナノメートル。鋼鉄と比較し、5分の1の低比重(1立方センチメートル当たり1・5グラム)であるにもかかわらず、同等の曲げ強度と5倍の引っ張り強度を確保できる。熱変形は石英ガラス並みに小さく温度変化に強い。また酸素などのガスを通しにくいガスバリアー性も持つ。
多数の用途
こうした特徴を生かし、多数の用途が考えられている。国内では10社以上が製品・サンプルを供給しており、CNFを配合したボールペンや大人用紙おむつ、スピーカー部材などの商品も登場している。三菱鉛筆のボールペンでは第一工業製薬が供給したCNFを増粘剤としてインクに添加することで、書き味を向上させた。日本製紙は自社の大人用の紙おむつでCNFを配合し、消臭・抗菌機能を向上させている。
CNFの製法は大きく分けて二つに分かれる。一つは化学的に前処理したのち機械解繊したもので、繊維が最も細く、透明の色をしている。東京大学の磯貝明教授らが開発したTEMPO触媒酸化処理と呼ばれるものが有名だ。
二つ目は機械的に製造する方法であり、ウオータージェットの技術を応用して超高圧化で素材同士をぶつけて微細化する方法、もしくは機械の中ですりつぶす方法などがある。薬剤などを使用しないので環境負荷が少ないとされる。
今後はこれまでの増粘や消臭といった添加剤用途に加え、自動車部品・部材、電子デバイス、医療といった分野などでの補強材(複合材料化)利用などで普及拡大が期待されている。
製造コスト低減、課題に
FRP用芯材に
旭化成は直径30ナノ―400ナノメートルのCNFによる多孔質不織布シート「CNF―nw」を開発。幅広い温度域で低熱膨張性、高弾性率を示すため、繊維強化プラスチック(FRP)用の芯材として期待されているものだ。また、王子ホールディングス(HD)ではガラス並みの高い透安定性、高いフレキシブル性といった特徴を持つCNFの透明連続シートを製造する技術を開発している。
特にここ数年は市場開拓をけん引する大手製紙メーカーの製造ラインの稼働が目立つ。だが、本格的な構造部材用途の普及期に移行するためには、製造コストの一層の低減が欠かせない。CNFの販売価格は現在、1キログラム当たり4000円から1万円程度とされる。2030年代と想定される真の普及期には同300―500円程度にすることが必要だ。
セルロース原料の特性である凝集を解き、CNFを得るには化学的な処理にしろ機械的に製造するにしても大きなエネルギーを必要とする。この過程でどうしてもコストがかさんでくる。樹脂との混錬時には安定的な複合材料が量産できるかについても、実証が必要だ。あるCNFメーカーも「パイロットプラントと量産プラントではまったく異なるので、一つひとつの工程で検証が必要」と慎重に量産スタート時期を見定める。「夢の新素材」が産業界に根付くまで、息の長い取り組みが求められている。
環境省プロジェクトでナノ・セルロース・ビークル実証始動
材料から搭載まで評価
車に導入 10%軽量化
「2020年にCNFカーモデルを誕生させたい」―環境省でスタートしたNCV(ナノ・セルロース・ビークル)プロジェクトは、CNF複合の樹脂材料を自動車に搭載し、10%程度の軽量化を目指している。材料から部品に搭載されるまで俯瞰(ふかん)した評価で、導入実証をはかる計画だ。大学や研究機関、自動車部品メーカーなど約20のサプライチェーンによる新たな挑戦が始まった。
同プロジェクトで中心の一つが京都大学の生存圏研究所。矢野浩之教授は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)プロジェクトで、樹脂との相溶性に優れたCNFと複合材料を連続的に製造する「京都プロセス」を世界に先駆けて完成しており、CNFの産業化を推し進める第一人者。環境省プロジェクトではこの京都プロセスでの生産品など幅広くCNFを集めて、強度や安定性など自動車材料としての適性を評価していく。
また実際にCNF複合部品を搭載したときの軽量化効果、CO2削減効果、ライフ・サイクル・アセスメント(LCA)評価やコスト計算なども重要だ。この点は産業環境管理協会が中心になり進めていく方針だ。
臼杵有光プロジェクト・ディレクターは「耐熱性改善で成形温度250度Cのナイロン6で使えるようになったのは大きい。成形発泡すると気泡が小さくなることも分かり、さらなる軽量化の可能性が出てきた。成形性や耐久性の課題を克服し、日本からデファクトスタンダードとして発信していきたい」と期待する。
矢野教授は「サンプルで得られた性能が自動車部材として量産した時にどうパフォーマンスできるのか、樹脂の流れなど見ていきたい」と力を込める。CNFの産業化は米国、カナダ、欧州など各国が関心を持っており、日本の自動車実証プロジェクトの成否は、世界でも大きく注目されるとみられている。
参加研究機関・企業
京都大学、産業環境管理協会、京都市産業技術研究所、金沢工業大学、名古屋工業大学、秋田県立大学、東京農工大学、昭和丸筒/昭和プロダクツ、利昌工業、イノアックコーポレーション、キョーラク、三和化工、ダイキョーニシカワ、日立マクセル、セイロジャパン、デンソー、トヨタ紡織、トヨタテクノクラフト
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