[ オピニオン ]
(2017/3/1 05:00)
2016年は没後100年、17年は生誕150年。明治の文豪・夏目漱石の人生は49年間と案外、短い。晩年の9年間を過ごし、幾多のベストセラーを送り出した東京・早稲田の旧居跡には公園と猫塚がある。
よく比較される森鴎外は、東京・千駄木の旧居跡に地元の文京区立の記念館が建つ。負けじと思ったのかどうか、新宿区は公園を再整備して9月に区立の「漱石山房記念館」を開館するという。
施設では後れをとったものの、漱石の一般の認知度は抜群だ。肖像は07年まで発行された千円札でよく知られ、日常の言動やキャラクターも寺田寅彦、内田百間、芥川龍之介らの弟子筋や、江藤淳はじめ後世の文学者・評論家によって広まった。
異色なのは漫画家の谷口ジローさんと文芸評論家の関川夏央さんの共著によるマンガの漱石伝。石川啄木や金田一京助ら漱石周辺の人物と明治・大正の世相を劇画調で描く。『「坊っちゃん」の時代』から『不機嫌亭漱石』まで、大人が楽しめる5部作は双葉社刊。
先月、鬼籍に入った谷口さんは、グルメブームの一翼を担ったマンガ『孤独のグルメ』でも知られる。胃痛持ちのくせに食いしん坊だった漱石に、泉下でどんなあいさつをしているだろう。
(2017/3/1 05:00)