[ オピニオン ]
(2017/3/23 05:00)
2016年に世界をかく乱した中国の鉄鋼過剰生産能力問題は、しばらく落ち着きをみせてきた。中国政府による公共投資や生産抑制策などが効いたためだ。ただ鋼材価格の戻しは一服感があり、短期的に軟調に転じるなど不安要因は解消していない。日本の関連業界も今のうちに事業基盤をしっかり整え、リスクに対して十分に備えておく必要がある。
中国の鋼材市場価格は昨年末から上昇基調が続き、大底だった2015年11月頃の2倍近い水準まで戻した。中国政府の財政出動の効果で鋼材需要が増えたことに加え、石炭など原料も高騰。各メーカーは市況悪化時に軒並み赤字に転落した反省から、無理な増産に走らず、コストを適正に上乗せしていることも要因の一つだ。
政府主導による国営大手2社の統合も、同じベクトルを向いたものだ。結果的に、中国から世界にあふれ出ていた安価な鋼材の輸出量は昨年秋から減少に転じ、16年(暦年)実績は依然高水準ではあるものの、7年ぶりに前年を下回った。
こうした動きは日本にも好影響を与えた。原料高騰によるコストアップで、鉄鋼メーカーや流通業者は鋼材の値上げを打ち出した。これは需要家におおむね受け入れられた。
国内の鉄鋼需要は緩やかに上昇しており、先行きの国内建設需要も増加の見込み。先高観に円安傾向も重なって荷動きが活発化している。一部企業は赤字決算から脱していないが、鉄鋼取引そのものは収益面ではプラスに作用している。
とはいえ安心は禁物だ。中国は世界の粗鋼生産量の半分を占め、毎年、日本の粗鋼生産とほぼ同量を海外に輸出しているという構図に変わりはない。中国のわずかな変調が世界をかく乱するという現実は今なお続いている。
中国経済は今のところ底堅いが、不動産や住宅市場は過熱気味ではないかとの指摘は根強くある。実際に3月初めには一時、市況は軟化し、需要の停滞懸念が浮上した。
昨年末、中国の過剰能力解消を世界の主要国で話し合う「グローバルフォーラム」が始動した。ただ日本の鉄鋼業界の関係者からは、中国の過剰生産解消の姿勢に物足りなさを感じたという声が漏れ聞こえる。
いまのうちから、再び中国産の鉄鋼が世界市場を混乱させるリスクに備える必要がある。鉄鋼各社は製造設備の保全や在庫水準の適正化、販売価格の是正、無理な取引の解消など、今のうちに打てる手を打っておくべきだ。
(大橋修)
(2017/3/23 05:00)