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[ 医療・健康・食品 ]
(2017/3/18 17:30)
現在の陽電子放射断層撮影装置(PET)の40倍以上の高い感度を持ち、より詳細な画像が得られる全身PET(TB-PET)の初の実用化に、米国の大学の研究コンソーシアムが取り組んでいる。2018年後半には人間を対象にした稼働試験に入る計画。放射性トレーサーの量が少なくて済み、妊婦や子どもの診断などにも適用可能なほか、取り込んだ物質の体内での滞留・代謝を詳しく捉えることで、医薬品開発や環境有害物質の健康への影響といった研究にも利用が期待されるという。
実用化を進めているのは、米国のカリフォルニア大学デービス校、ローレンス・バークレー国立研究所、ペンシルベニア大学からなる「エクスプローラー(EXPLORER)コンソーシアム」。プロジェクトの概要を科学誌のサイエンス・トランスレーショナル・メディシンに16日発表した。
PETでは放射性能物質(トレーサー)で標識された化合物を人体に投与し、そこから放出された陽電子が電子と衝突して対消滅する時に発する光子(ガンマ線)を検出器で捉える原理を使っている。トレーサーの位置から3次元の画像を得ることで、対象となる部位の代謝量や血流量といった活動を定量的に捉え、がんやアルツハイマー病などの診断に役立てられている。
ただ、検出器は通常、被験者を取り囲むようにリング状に配置されているため、一度に検出できる幅が軸方向で25センチメートル未満と狭く、発生する光子の1%程度しか測定できてないという。そこで、コンソーシアムでは検出器の軸方向の長さを人間がすっぽり入る2メートルにまで伸ばし、放出される光子をくまなく捉えられる設計にした。こうすることで、信号とノイズの割合であるSN比も6倍以上に向上、測定対象を全身に広げると同時に、臓器・部位ごとの活動の詳細な画像が得られるとしている。
感度が上がることで、病変部の密度が低い炎症や初期のがん転移といった全身レベルの診断、さらには医薬候補化合物や細胞治療の研究などにも応用できると期待されている。
試作機開発には、2015年に米国立衛生研究所(NIH)がハイリスクかつイノベーティブな研究を支援する制度を使って資金援助を実施。さらに、同コンソーシアムでは商用化に協力するための産業パートナーを1月に公表し、中国の医療機器メーカー、上海聯影医療科技有限公司(UIH)の米国子会社であるUIHアメリカと、シリコンベースの光電子倍増センサーを製造するアイルランドのセンスLテクノロジーズの2社を選定している。
(2017/3/18 17:30)